きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『タクアンの丸かじり』 東海林さだお 

 

タクアンの丸かじり (文春文庫)

タクアンの丸かじり (文春文庫)

 

 

「丸かじりシリーズ」

 毎日新聞朝刊に連載の4コマ漫画「アサッテ君」でお馴染みの東海林さだおさん。連載は2014年12月末で終了していますが、こちらは1987年より続く「丸かじり」シリーズで、これまでに累計200万部を突破。 朝日新聞の連載「あれも食べたいこれも食べたい」を文庫にしたもの。ほかに、トンカツの丸かじり、親子丼の丸かじり、猫めしの丸かじり、など多数。以下に、本書の一部を紹介。

 

幸せの黄色いタクアン

 天丼、かつ丼には、まっ黄色でうんと甘からの東京タクアンが合う。ところが、こういう丼物を出す蕎麦屋にしろ定食屋にしろ、このタクアンをけちる。二切れしかない。
 こうした店で丼物を食べながら、いつも(もう一切れ、タクアンがあったら)と思うのはぼくだけだろうか。
 それにしても、特に最近、お新香をないがしろにする店が多い。スーパーで買ってきたようなお新香を平気で出す店もある。まるでクズのように丼のフタにへばりついていて「こんなもの食えるか」と言いつつ、結局は食べてしまうところが情けない。

 

大冒険 梅干し一ケで丼めし

 そんなことが、はたして可能だろうか。丼一杯のゴハンを、たった一個の梅干しで食べきってみようと思いついたのだ。不可能、と言う人もいるだろう。無謀、と諭す人もいるにちがいない。人は毎日、飽食のやましさにつきまとわれながら食事をしている。そのアンチテーゼとしても、この試みは時代にマッチした冒険と言えると思う。しかも、この冒険の費用はきわめて安い。準備も簡単だ。
 目の前に、ホカホカと湯気をあげる丼一杯のゴハンと冷えびえと小皿の上に横たわる一個の梅干しがある。なんだか日本人の血がさわぐ ...

 

米原万里の著書で「丸かじり」を紹介

 米原万里の著書「打ちのめされるようなすごい本」で紹介されていた「丸かじりシリーズ」。米原はロシア語の同時通訳者であり小説家ですが、2006年に56歳の若さで他界。この著書は週刊文春の連載をまとめたもので、500ページを超える書評集。ロシア東欧関係の書籍も多く、また丸谷才一やこのようなユーモア系もたくさん紹介されています。以下は、著書での「タクアンの丸かじり」の紹介文を抜粋したものです。

 「タクアンの丸かじり」は、モスクワへ向かう機中で読んでいたのだが、私があまりにもしばしば客席でのたうち回って笑い転げるものだから、隣席のロシア人のおっさんの好奇心がどんどん膨張していくらしくて、少しずつこちらに身を乗り出してくるのがわかる。おっさんついに堪えきれずに切り出した。
「何だ何だ、何が書いてあるんだ?」
 この可笑しさを何とか伝えてあげよう、これこそ草の根文化交流である。私の2倍はある体積がのしかかってくる圧迫感から早く解放されたくて、わがロシア語力を総動員したのだが、ハッキリ言って放射線医学や遺伝子工学に関する会議の通訳の時より苦労したのだった ...