『国境のない生き方 私をつくった本と旅』 ヤマザキマリ

 

 

 

ヤマザキマリの体験的人生論

 14歳で欧州一人旅、17歳でイタリア留学。住んだところは、イタリア、シリア、ポルトガル、アメリカ。旅した国は数知れず。ビンボーも挫折も経験し、地球のあちこちで生きてきた漫画家をつくったのは、たくさんの本と、旅と、人との出会いだった。古今東西の名著から知られざる傑作小説まで、著者が人生を共に歩んできた本を縦糸に綴る体験的人生論です。

 

 

地図のサイズを変えてみる

 この本は人から紹介されて読んだもの。代表作「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリは筋金入りの旅人です。そして根っからの本好き。この人から本と旅を取ったら何も残らなくなってしまうくらい。いまでも旅を続けるヤマザキマリの現住所は地球だという。持っている地図のサイズを変えてみる。なぜ生きていくのかとか、仕事がどうとか、人間関係がどうだとか、私にいわせれば、そんなものは、あとからなすりつけたハナクソみたいなものだと。
 本書は自身のトピックスを12章に分け、いまの著者をつくった、それぞれの書籍を紹介しています。以下は、取り上げられている主なものです。

ニルスのふしぎな旅』ラーゲルレーヴ
暮しの手帖
『けものたちは故郷をめざす』安部公房
『野火』大岡昇平
『夏の闇』開高健
百年の孤独ガルシア・マルケス
『蜘蛛女のキス』マヌエルプイグ
日本沈没小松左京
デルス・ウザーラ沿海州探検行』アルセーニエフ
『ゲンセンカン主人』つげ義春
『死の棘』島尾敏雄
アラビアンナイト
千夜一夜物語
豊饒の海三島由紀夫
『黄色い本ジャック・チボーという名の友人』高野文子
チボー家の人々』ロジェ・マルタン・デュ・ガール
『昆虫の図鑑』学習百科図鑑

 

満身創痍に沁みる一行

 とにかく貪るように本を読んだし、あんな読書は後にも先にもない。活字こそが、限度を超える貧乏学生暮らしをなんとかやりくりしていた、あの頃の私の支えでした。あれはもう、ただの読書ではなかった。自分を支える言葉を見つけたくて、すがるような気持ちで真剣に読んだからこそ、一行一行が骨身に沁みるようでした。本だけじゃない、そこで出会ったひとたちが、のちの私をつくるたくさんの種をまいてくれたのです。

 

「ボーダー」を越えていく力

 実際に人が生きていく時には、自分が生きているコミュニティーの制度とか文化とか、価値観とのせめぎ合いから完全に逃れることは難しい。人は社会的な生き物でもある。そういう中で人が押しつぶされることなく、その人本来の生き方をまっとうするには、どうしたらいいのか。
 私は、その手立てのひとつが「教養を身につけること」ではないかと思っています。何かを矯正されそうになった時に、「でもこういう考え方もある」「まだ、こういう見方もできる」と、「ボーダー」を越えていく力。
 プリニウスハドリアヌスも、それを持っていたのではないか。だからこそ「対話し続けること」を選んだ。教養もまた、人を本来の姿へと導いてくれる、ひとつの自然なのだと思います。