『ロシアは今日も荒れ模様』 米原万里
天使と悪魔が共に棲む国
「ロシアとロシア人は退屈しない」そう断言する著者は、同時通訳という仕事柄、かの地を数限りなく訪れている。そして知れば知るほど謎が深まるこの国は、書かずにはいられないほどの魅力に満ちあふれている。激動に揺れながら過激さとズボラさ、天使と悪魔が共に棲む国を鋭い筆致で暴き出す爆笑エッセイ。
ロシア人がロシア人であることの慣用句(抜粋)
・「世の中に醜女(ブス)はいない、ウォトカが足りないだけだ」*ウォトカ=ウォッカ
・シベリアでは、400キロは距離ではない、マイナス40度は寒さではない、プラス40度は暑さではない、ウォトカ四本は酒ではない。
・「こ、こ、こっれがなくちゃ、ルルルロシア人はルルルロシア人じゃない。ゴッルバチョッフの野郎、そこのところが分かっちゃいねえんだ!」 (ウォトカ好きのエリツィン)
・「父ちゃん、酔っぱらうってどんなことなの?」、「ここにグラスが二つあるだろう。これが四つに見えだしたら、酔っぱらったってことだ」。「父ちゃん、そこにグラスは一つしかないよ」
・酔っぱらいの亭主を見かねた妻が詰め寄った。「あんた、ウォトカをとるの、わたしをとるの? ハッキリしてちょうだい」、「その場合のウォトカは何本かね?」
・問い:ソ連の社会主義憲法とアメリカの憲法との違いは何か?
答え:どちらの憲法も言論の自由を保障しているが、アメリカの憲法は発言した後の自由も保障している。
・工場長が不倫中の秘書に向かって言った。「ねえ君、そろそろドアを閉めた方がいいんじゃないか」、「だめです、工場長。ウォトカを飲んでるって思われちゃいますから」と秘書は答えた。
・ロシア人はウォトカのためなら、どんなことでもできる。唯一できないことは、そのウォトカを飲まないことだ。
植民地に見える日本
日本はアメリカの従属的なパートナーである。ロシアから見る限り、いやきっと他の国々から眺める限り、ほとんど植民地に見える。国連はじめ様々な国際会議で、日本ほどアメリカの意向に可哀想なくらい忠実な国はない。アメリカに頭を下げていかねばならない自分の一番認めたくない部分を、異常に拡大した形で日本が体現している。いやでいやで仕方ない。
その日本がアメリカに対しては、原爆投下についてでさえ謝罪を求めないのに、戦後の日本人捕虜の虐待についてソ連には謝罪を求めてくる。臆面もなく「弱きをくじき強きを助ける」日本をもてあそびたくなる。