きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『奔馬 豊饒の海(二)』 三島由紀夫

 

奔馬―豊饒の海・第二巻 (新潮文庫)

奔馬―豊饒の海・第二巻 (新潮文庫)

 

 

あらすじ

 今や控訴院判事となった本多繁邦の前に、松枝清顕の生まれ変わりである飯沼勲があらわれる。「神風連史話」に心酔し、昭和の神風連を志す彼は、腐敗した政治・疲弊した社会を改革せんと蹶起を計画する。しかしその企ては密告によってあえなく潰える... 。彼が目指し、青春の情熱を滾らせたものは幻に過ぎなかったのか?-若者の純粋な〈行動〉を描く『豊饒の海』第二巻。

 

日輪は瞼の裏に赫奕と昇る

 神前奉納剣道試合でひとりの少年、飯沼勲に会う。少年の脇腹のところへ目をやると、三つの小さな黒子(ほくろ)をはっきりと見た。本多は清顕の別れの言葉を思い出していたのである。「又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」。彼がありありと見た転生の不思議は、正しく滝の下で、清顕の生まれ変わりに会った。飯沼少年には清顕の美しさが欠けている代わりに、清顕にかけていた雄々しさがあった。
 恋愛的青春の『春の雪』(第一巻)とは打って変わって奔馬の如く、生まれ変わった勲の真っすぐな純粋性が描かれている。

 勲のねがいは昇る日輪のもとに、輝く海をまえに死ぬことだった。「正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼(まぶた)の裏に赫奕(かくやく)と昇った」の一節で、第二巻「奔馬」は終わる。主人公は志を果して海岸で切腹したのが深夜だった。だから太陽が昇って輝く時刻ではない。解説にもあるが、勝利を収めたのは勲で、夢こそが現実に先行するものであり、著者である三島由紀夫はこの一行に託したのではないか。

 

登場人物

飯沼勲(18-19歳)第二巻の主人公。國學院大學予科学生。剣道三段。昭和の神風連たらんと行動をおこす。滝の下で本多と会う。清顕と同じく脇腹に三つの黒子がある。満20歳の年を目前に切腹する

本多繁邦(38-39歳)大阪控訴院判事となる。後に退職して勲のために弁護士になる。

本多梨枝 本多の妻。つつましい性格。夫婦に子供はいない。

飯沼茂之43-44歳)勲の父。松枝家を出た後、みねと夫婦になり、右翼団体「靖献塾」の塾長となっている。

飯沼みね 勲の母。中年肥りしている。6年前に塾生の一人と浮気し、夫に打たれ入院したことがある。

鬼頭謙輔 陸軍中将。名高い歌人。鬼頭家と飯沼家は家族ぐるみのつき合いがある。

鬼頭槇子(32、33歳)鬼頭中将の娘で、当人も歌人。勲の恋人。離婚経験者。

堀中尉(26、27歳)陸軍歩兵中尉。清顕と聡子が最初に密会した下宿屋・北崎に住んでいる。

洞院宮冶典王(44-45歳)山口で聯隊長としている。剛毅な宮様軍人。

佐和 靖献塾の年長塾員。世事に長けている。勲の理解者だが、一筋縄ではいかない人物。

井筒、相良(18-19歳)勲の学友。要人刺殺計画の仲間。

藤原武介 資本家。財界の黒幕。辺幅を飾らない人柄で愛嬌がある。伊豆山の密柑畑に別荘を持つ。

新河亭(新河男爵) (53-54歳)軽井沢に広大な別荘を持つ豪商。日本の風習を嘲笑する。右翼に狙われブラックリストに載る。勲の暗殺計画にも名前が上がり、刺殺する担当は勲であった。

新河男爵夫人 自分たちを野蛮な国(日本)に滞在している白い肌の文明人と思い、ロンドンに「帰り」たがっている。

松枝侯爵(61歳位)清顕の父。実権がなくなり、新河男爵家の別荘に集まる客の中で、唯一右翼に狙われない。