きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『金閣寺』 三島由紀夫

 

いつかきっとお前を支配してやる
僧侶による金閣寺放火事件

 

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金閣寺』冒頭部分

 『金閣寺』は三島由紀夫の代表作でもあり、昭和31年度の読売文学賞を受賞した作品。冒頭は次のように始まります。

幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。
私の生まれたのは、舞鶴から東北の、日本海へ突き出たうらさびしい岬である。父の故郷はそこではなく、舞鶴東郊の志楽である。懇望されて、僧籍に入り、辺鄙(へんぴ)な岬の寺の住職になり、その地で妻をもらって、私という子を設けた。...

昭和25年7月に起きた僧侶による金閣寺放火事件を題材にしており、この異常な事件を文学的な切り口から小説にしたものです。

 

僧侶による金閣寺放火事件

 7月2日未明に、鹿苑寺(ろくおんじ)から出火の第一報があり消防隊が駆けつけたが、その時には既に舎利殿から猛烈な炎が噴出して手のつけようがなかった。人的被害はなかったが、国宝の舎利殿金閣)が全焼し、文化財も焼失。
 鎮火後の現場検証では、普段火の気がないことなどから不審火の疑いがあるとして同寺の関係者を取り調べた結果、同寺子弟の見習い僧侶であり大谷大学学生の林承賢(当時21歳)が、寺裏の山中で服毒し、けがをしているところを発見、逮捕された。なお、林は救命処置により一命を取り留めている。

 

著名人が犯行を分析

 三島由紀夫は「自分の吃音や不幸な生い立ちに対して金閣における美の憧れと反感を抱いて放火した」と分析したほか、水上勉は「寺のあり方、仏教のあり方に対する矛盾により美の象徴である金閣を放火した」と分析している(水上は舞鶴市で教員をしていたころ、実際に犯人と会っているという)。また、服役中に統合失調症の進行が見られたことから犯行の一因になったのではないかという指摘もある。なお当時、産経新聞の記者だった福田定一司馬遼太郎)も火災現場へ駆けつけている。

 

精神鑑定ののち服役

 事件後、林の母親は山陰本線の列車から保津峡に飛び込んで自殺している。林は精神鑑定ののち、懲役7年を言い渡され服役したが、その後減刑になり昭和30年10月に出所。翌年3月7日に結核統合失調症により病死(享年26歳)。現在の金閣京都府の支援や寄付により、事件から5年後の30年に再建された。


悲劇を生んだ妄想と現実のギャップ

 小説での溝口少年(放火をする僧侶)は、「金閣ほど美しいものはこの世にない」という金閣寺を礼讃する父親の言葉を盲目的に信じていました。そして、少年はまだ見ぬ金閣寺の荘厳さ、崇高さ、美しさを「想像上で」構築し始めます。
 病気のため命が長くないと悟った父は、息子を金閣寺の住職に預けますが、少年はそこで見た実際の金閣寺と想像上の金閣寺のギャップを感じてしまいます。「金閣がその美をいつわって、何か別のものに化けているのではないか」とまで思うようになり、妄想は際限なく拡大し、その妄想と現実のギャップが悲劇を生む結果になってしまいます。まして少年は、吃音を気にし、自らにコンプレックスを持っており、心理的な壁にもなって、手が届かない存在に。それが一層の絶望感と狂気へと導いてしまうのです。

 

いつかきっとお前を支配してやる

 第二次世界大戦で東京が焦土と化し、「次は京都か?」となったとき、この美しき金閣寺をも焼くと考え、「金閣が灰になることは確実なのだ」と語り、滅びの美学に通じ、彼を陶酔させていきます。この文章は三島由紀夫の退廃性を表し、死に直面することで生が輝くのだと。しかし、京都は空襲を免れます。溝口は、否応なしに現実に引き戻される。滅びると思っていた金閣寺が生き延びてしまう。そして彼は「いつかきっとお前を支配してやる。二度と私の邪魔をしに来ないように、いつかは必ずお前をわがものにしてやるぞ」と復讐とも言える宣言をします。

 

美との心中

 母親は彼に金閣寺の住職になることを期待していました。結局はその期待を裏切ることになり、精神的に追い詰められた溝口は不動の金閣寺に対抗すべく焼き打ちという暴挙を考えます。金閣寺を現実に焼くことで自分の醜い内面と美としての外界とのバランスをとろうとしたのでしょうか。美との心中であり、殉死を試みます。

 

金閣寺』は一貫した美学の発露

 三島由紀夫自衛隊に向けた演説をしたあと割腹自殺をしますが、この殉死の発露が『金閣寺』に見られます。犯罪行為を美化し、芸術化したこの小説が30歳の時に書かれたということは、最後の『豊饒の海天人五衰』を書き上げた45歳で、一貫した彼の美学は完成されたということなのでしょうか。

 

三島由紀夫の「滅びの美学」

 この『金閣寺』、決して易しく書かれているわけではないです。すべての描写が芸術的で、小説としての完成度は限りなく高く、凡人にはとてもこんな文章は書けまいと思わせてしまうほど、三島由紀夫の「滅びの美学」が精密に描かれています。水上勉の「金閣炎上」や「五番町夕霧楼」と読み比べてみるのも面白いでしょうし、また酒井順子の「金閣寺の燃やし方」で両者の比較論から読み始めるも良し。映画や演劇、オペラにもなっています。

 (経営者のためのリベラルアーツ入門、Wikipedia引用)

 

 

金閣寺 (新潮文庫)

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