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ビンボー魂 風間トオル 時々、神様に出会った 

 

貧乏だから辛いのではなく
空腹だから辛いのです

 

風間トオル

1962年神奈川県生まれ。東京デザイン専門学校卒業。メンズノンノ、メンズクラブ等のモデルを経て、俳優へ。映画『わが愛の譜 滝廉太郎物語』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞。

 

5歳のときに母が出て行き、そして父もいなくなった。祖父母との貧乏生活がはじまるも年金だけでの生活。風呂なし共同トイレのアパート暮らし。屋外の洗濯機がお風呂がわり、切り傷はツバで治し、虫歯はペンチで抜く、公園のアサガオを食べて飢えをしのぎ、カマキリも食べた。それでもグレることなく貧乏を知恵と度胸で凌いだ。

祖父が亡くなり、祖母の年金だけになって暮らしは更に厳しくなる。中学に入ると唯一きちんとした食事だった給食もなくなってしまい、お弁当を持たせてもらえず、ほとんど毎日、昼食抜きで過ごした。ランチタイムは大抵、タンポポの葉っぱなどを摘み食いしながら、校庭でぼんやりと過ごしていた。

バレンタインデーにもらったチョコレートは20個か、多い年には30個とかあって、それを365日分に分割して冷蔵庫に保管し、大切なエネルギー源として毎日大事に食べた。
ホワイトデーのお返しは、お金がないので公園で拾ってきた松ぼっくり。自分で白く塗ってアクセサリーに。鞄にぶらさげたり、紐をつけてネックレスにしたりして。

 

 ある日、いつものように土手へ行くと、ホットドッグを売るワゴン車が止まっていました。野球の練習をする高校生や、デートをするカップル、キャッチボールをする親子などが次々に買いに来て大繁盛。僕はいつも、忙しそうに切り盛りするホットドッグ屋のご夫婦を少し離れたところから見学していました。

すると、「おーい、そこの坊や」と、どうやら僕を呼んでいる様子。ワゴン車へ近づいて行くと「悪いけどキャベツを切るのを手伝ってくれないかなぁ」と持ちかけられました。「うん、いいよ」と二つ返事で引き受けたのは、暇だったし面白そうだなと思ったからです。教えられたとおりキャベツの千切りを始めたら楽しくて、時間が経つのも忘れて黙々と作業を続けました。

やがて夕暮れ時になり、すっかり客足が途絶えると、「よく頑張ってくれたね。本当に助かったよ」と、おじさんは報酬としてホットドッグを二つくれるというのです。
「もらっていいの?」と尋ねると、「もちろんだよ。さぁ、遠慮なく食べな」と。空腹だったので、嬉しくて、ありがたくて。思えば、あれが生まれて初めてのアルバイトでした。それから毎週、小さなアルバイトをするようになりました。
ホットドッグ屋のご夫婦が「おっ、今日も来てくれたね」といつも笑顔で迎えてくれました。

でも、本当はキャベツを切る手伝いなんて必要としていなかったのだと思います。僕の境遇を見抜いたうえで、ただ施すのでは、この子のためにならないと考えてくれたのだと今ならはっきりとわかるのです。
僕はそういう愛のある大人に育ててもらいました。
時々、神様に出会った。そんなふうに思うのです。

そして、貧しかった幼少時代を振り返って思うのです。本当はお金がないから不幸なんじゃなく、お金に支配されてしまうことが問題なんじゃないかなと。