きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

芥川龍之介 『羅生門』 近藤サトの朗読が秀逸

 

或る日の暮方の事である
一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた
下人の行方は、誰も知らない ...

 

羅生門・鼻 (新潮文庫)

羅生門・鼻 (新潮文庫)

 

 

羅生門

 京の都が、天災や飢饉でさびれすさんでいた頃。荒れはてた羅生門に運びこまれた死人の髪の毛を一本一本とひき抜いている老婆を目撃した男が、餓死か盗人になるか、生きのびる道を見つける。そして漆黒の闇夜に行方をくらました。

 

出だしと最後の一文

 或る日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。広い門の下には、この男の外に誰もいない。唯、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、きりぎりすが一匹とまっている ...

... 下人の行方は、誰も知らない。

 東大在学中、23歳の時にこの『羅生門』で文壇デビューし、夏目漱石門下生となりました。10ページ程度の短編小説ですが、人間の本質を表しています。

 

最後の一文に注目!

 ここで最後の一文に注目してみよう。平安京の都に天災や飢饉で、羅生門に運びこまれた多くの死体。門の下で雨宿りをしていた一人の下人(男)はここで飢え死にするか、盗人になるか、生きのびる道を探します。そして、盗人になるより外に仕方がないと。死体から髪の毛を抜いていた老婆の着物をはぎ取り、足にしがみつこうとする老婆を蹴り倒して、またたく間に夜の底へかけ下りた。
 鬼がすむ平安京の闇。現代には鬼はもういない、本当にそうでしょうか。羅生門で鬼となった下人のその後を、芥川龍之介は最後にこう書いています。
「下人の行方は、誰も知らない ...  」
鬼はいまも心の闇にすんでいるのです。

 

作品の多くが『今昔物語』に出典を仰ぐ

 芥川龍之介歴史小説には出典があり、圧倒的に『今昔物語』に仰いだものが多い。この『今昔物語』の美しさや価値を発見したのは、専門の国文学者ではなく、実に芥川その人でした。彼がこの物語に近づいたのは、おそらく少年のころからの「ミステリアスな話」に対する嗜好からだといいます。
 そして、大正文学を代表する夏目漱石森鴎外芥川龍之介らが現代の文学的教養の基礎をつくったといわれています。

 

近藤サトの凛とした朗読

 格調高い文章で、読んでいてテンポがよく、姿勢を正したくなる印象です。YouTubeに元フジテレビアナウンサー近藤サトの『羅生門』の朗読映像があります。 アルトの声がしっかりと響きわたり余韻が残る、凛とした美しさがあります。羅生門の天災や飢餓で、すさんだ光景が面前に現れてくるようです。