きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『舞姫』 森 鴎外 

 

舞姫』あらすじ

 父を早くに亡くし、母の手で育てられた秀才・太田豊太郎は某省から派遣されベルリンに留学する。そこで、踊り子のエリスと出会い、恋愛へと発展するも、留学生仲間から嫉妬、中傷され免官になる。それを知った母は自殺してしまう。天方大臣の秘書である親友・相沢謙吉の配慮で新聞社の通信員の職を得る一方、豊太郎はエリスの家に転がり込む。やがてエリスは身ごもる。

 天方大臣とベルリンにやってきた相沢は、豊太郎の前途を憂い、エリスと別れることを勧め、天方大臣のロシア行きに通訳として豊太郎を随行させる。天方大臣の信任を得た豊太郎は、帰国を承知するが、エリスを裏切ったことに悩み、病に倒れる。その間、相沢はすべてをエリスに語り、それを聞いたエリスは発狂してしまう。豊太郎は断腸の思いを残しながらも帰国の途につく。

 鴎外自身が、明治17(1884)年から4年間、軍医としてドイツに留学した際の、恋愛体験をもとに書かれた。明治23(1890)年発表の作品。

 

舞姫』の出だしと最後の一文

 石炭をばはや積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静かにて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり ...

... ああ、相沢謙吉がごとき良友は世にまた得がたかるべし。されどわが脳裡に一点の彼を憎むこころ今日までも残れりけり。

 身ごもったエリスと別れ、ひとり帰国した太田豊太郎は、最低な男という印象ですね。これでただの悲恋の小説として終わってしまうのでしょうか。秀才の鴎外が書いたものです。実はもっと深い「何か」があるのではないか、という疑問がわいてきます。そのあたりは、機会をあらためて追及してみたいと思います。

  

子孫はみんな、キラキラネーム

 鴎外は最初の妻・登志子が長男を産むと、まもなく離婚。後妻の志げは判事の娘で美人だったらしい。鴎外はその二人の妻との間に子どもがおり、長男に於菟(おと・Otto)、長女に茉莉(まり・Marrie)、次女に杏奴(あんぬ・Anne)などと命名しました。いずれも明治生まれで珍しい名前ですね。若い頃のドイツ留学中に、本名の林太郎をきちんと発音されなかったことがコンプレックスになっていたため、特に独仏語で発音しやすい名前を選んだのだという。孫にも真章(まくす・Max)、富(とむ・Tom)、礼於(れお・Leo)、樊須(はんす・Hans)などがあり、鴎外の文学的な才能を受け継いでいたためか、子どもはみな、のちに著作を残しています。

 

森鴎外(もりおうがい)

本名、森林太郎。1862年(文久2年)島根県出身。東京大学医学部卒業後、軍医となり、ドイツ留学。帰国後は軍医総監医務局長にまで進んだ。公務の傍ら『舞姫』『ヰタ・セクスアリス』など数々の名作を発表し、翻訳、評論、戯曲などでも活躍。官僚(高等官一等)。位階勲等は従二位・勲一等・功三級・医学博士・文学博士。ほかに『阿部一族』『山椒大夫』『雁』など。60歳没(肺結核

 

Wikipedia、「文豪がよくわかる本」ほか引用) 

 

現代語訳 舞姫 (ちくま文庫)

現代語訳 舞姫 (ちくま文庫)