『慶應幼稚舎』 福澤諭吉の教育思想

 

独立自尊」という理念
個人が平等であることを担保とするためには、一人ひとりが独立していなければならない。個人の独立があってはじめて国が独立できる。

 

実は「体育会系」

 慶應幼稚舎と聞くと、セレブな家庭の子どもが通う学校、親は大企業の社長や老舗の経営者ばかりで、エリート教育をおこなっている私立小学校(幼稚園ではない)というイメージを持つかもしれない。箸より重いものを持ったことがない、ひ弱な子どもという印象ですが、実は教育方針も幼稚舎に通う子ども自身も「体育会系」なんです。
「先ず獣身を成して後人心を養え」
 人としての心をはぐくむよりも先に、丈夫で健康な身体に育てる。これがこの学校の創業者の教育方針なのです。

 

東大入試よりも難しい幼稚舎入試?

 慶應幼稚舎の入学試験は東京都内の私立小学校の中でも最難関と言われる。百数十名の定員に対し、毎年二千人以上の応募がある狭き門。「慶應幼稚舎に入学するのは慶應義塾大学に入るよりも難しい」という人もいるし、なかには「東大に入るよりも難しい」という人もいる。お受験のための予備校、お教室に入るのが必須だとも。しかし、その入学試験には「ペーパー試験」がない。そして親の面談もないし、願書には親の職業や学歴さえ書く必要もないという(それでも備考欄に親の詳細を書く人が多いらしい)。あるのは「行動観察」と「制作」の試験のみ。実際は模倣体操やお絵かきなど。

 

唯一のノルマは1キロメートルの遠泳

 高倍率の入試をみごと突破した子どもたちは、その後どんな教育を受けることになるのだろうか。実は、福澤諭吉の教育観からそれほど勉強に力を入れているわけでもないらしい。だから学科の成績が下位に低迷する子どももいるという。そのかわり、体育の授業には力を入れている。水泳の授業は重点的におこなわれ、在学中に1キロメートルの遠泳ができるようになることが求められる。

 

6年間クラス替えがない

 入学時にK組、E組、I組、O組の4クラスに分けられ、6年間クラス替えがなく、担任の先生もずっと同じ。クラスごとに教育方針が違い、担任に大きな裁量権が与えられている。クラスはどう編成されるのか。K組には「慶應ファミリー」の子どもが多く集まるという。父親か祖父が有名企業のオーナー経営者で慶應卒というケース。一方で、O組には開業医の家の子どもが多い。将来、後を継ぐための医学部進学組。だから、O組は勉強に重点を置いたクラス。E組とI組は中間にあたる存在。サラリーマンの子どもたちか。

 

 

福澤諭吉の教育思想

 司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』にも登場する秋山好古は、自分の子どもはもちろん、親戚の子どもの多くも慶応幼稚舎で学ばせた。福澤諭吉を尊敬していたという。小説の中でも、正岡子規の「この世の中で... たれがいちばんえらいとお思いぞな」という質問に「あしは会うたことがないが、いまの世間では福澤諭吉というひとがいちばんえらい」と答えている。
 当時は下級士族がどんなに勉強しても、立身出世の見込みはなかった。それが封建制度であり、上級士族の子どもは小さいころから威張り散らし、下級士族の子どもが逆らうことはできない。『福應自伝』には「門閥制度は親の敵」とまで書いている。
 独立自尊という理念は、諭吉の思想を理解するうえでもっとも重要なキーワード。個人が平等であることを担保とするためには一人ひとりが独立していなければならない。独立とは「権力や社会風潮に迎合しない態度」のこと。さらに個人の独立があってはじめて国が独立できる、というのが彼の思想。その根底には明治という時代背景の中で欧米の列強に飲み込まれないように国がしっかりしないといけない、という認識があるのです。

 

 

慶應幼稚舎 (幻冬舎新書)

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