『知的文章術』 外山滋比古 心をつかむ書き方

 

誰も教えてくれない
心をつかむ書き方

 

「ア ナ タ」

 南極観測船「ふじ」に乗り組んでいる夫にあてて、日本にいる若妻から打った年賀電報は「アナタ」というたった三文字。ここにはいくら長々と話しても伝えられない熱い思いがこめられている。ことばの表現は心であって、技巧ではない。人の心を打つ文章を書くには書く人の心がこもっていなくてはならない。つまり、文章に上達するには、心を練る必要があるということである。

 

文章を書く心構え

・他人に読んでもらうのが文章
 先、先が読みたくなって、気がついてみたらもう終わっていた。ああ、おもしろかった。こういう文章ならいくら読んでもいい。そういう気持ちを与えたら名文である。

・案ずるよりは書いてみる
 頭の中であれこれ考えていると、次第に書くのがこわくなってくる。いつまでもくよくよ思案したりしないで、とにかく書いてみる。案ずるより書くはやさしい。

・「名文」を読む
 何度もくりかえし読まれた文章は、その人にとっての名文である。一人、二人の文章家の文章を集中的に読み込んで、その骨法を学ぶ。これがいちばんの近道だと思う。

・まねてみる
 黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』はしっかりした書き方がしてある。情景もあざやかに目にうかび、文章に軽快なリズムがある。こういう文章を声を出して読んでみる。

 

読まれる文章のコツ

・同じことばをくりかえさない
 四百字詰原稿用紙一枚の中には同じ語をなるべく二度は用いない。同じことばがすぐ近くに出てくる文章は読む人に難しいという感じを与える。話をするときも同じに。

・長文と短文
 いまの日本語では、40〜50字ぐらいが標準である。それを大幅に超えて70〜80字は長文で、反対に20字前後のセンテンスを重ねるのが短文。一般に短文が好まれる。

・つなぎの接続詞
 英語の作文の本に「センテンスを、”そして ” (and) とか ” しかし” (but) で始めるのは悪文である。そういう書き方をしてはいけない」とあるのを見て、われわれは愕然とする。

・段落(パラグラフ)
 外国ではきわめて厳重である。パラグラフのない文章は文章と認められない。一段落は200字から300字の長さが標準とされる。段落は長いより短いほうが読みやすくなる。

・である調、ですます調
 もともと活字になる文章は「である」調が標準となっていた。戦後になってお役所の広報が威張っていると思われるので「ですます」が普通に。どちらでも書けるように。

・わかりにくい文章
 センテンスが長いと読みにくい。また日本語は名詞が先に、形容詞(或いは動詞)が後にくる順がいい。「連休二日めの日曜のきょうは」は「きょうは連休二日めです」に。

 

心をつかむ構成

・一口に言えること
 あるイギリスの学者のことばに文章の主題は「ひとつのセンテンス(文)で表現できるものでなくてはならない」と言っている。この主題、テーマが書きたいことである。

・初めが勝負
 文章の練習として新聞や雑誌への投稿もいい。ある程度文章が書けるだけでなく、どこか ”おもしろい” ところがほしい。冒頭がおもしろいとその後を読まずにいられない。

・終わりよければ
 初めはとくに重要。その次に大事なのは、終わりの部分。終わりは余韻を決定する。書き出しの一文と、末尾がきまれば、それでもう半分はできたようなものだという。

・テーマと展開
 題をつける練習をすると、言いたいことを筋をつけながら書くことができる。題だけでなく段落ごとに小見出しをつけるつもりになると筋道のはっきりした文章が書ける。 

・推敲(すいこう)
 文章を書き上げたら、必ず読み返しをする。言いまわしのまずい箇所などを改める。これを推敲という。推敲するときは黙って読むのではなく、声を出すと効果的である。

 

 最近は、短文でわかりやすく、読み易いものが好まれる時代に。センテンスとセンテンスの間に多少の空白がある方が、さわやかな感じがする。また形容詞や副詞を乱用しないこと。飾りたくなるのは幼いのだと思ってよい。
 上記のほかにも、心をつかむ素敵な文章の書き方や心構えが満載です。