『まねる力』 齋藤 孝 模倣こそが創造である
厳しい現代社会を生き抜くために
もっとも必要なもの
それが「まねる力」だ
まねる力があれば、どこでも生きていける
人間が生きていくうえで、いちばん必要な力とは何でしょう。いま学校で学び始めたばかりの子どもたちにせよ、これからすぐ社会に出ていく学生たちにせよ、彼らが厳しい現代を生き抜いていくために、どんな力を身に付けさせるのがよいか。
そこで『子どもに伝えたい三つの力」として
・段取り力
・コメント力
・まねる力
を提言し、本書はそのなかでも「まねる力」に焦点を当てたものです。まねる力さえあれば、何とか社会で暮らしていける、生きるための最低限のことをクリアできる、そんな結論に至ったのです。
「まねる力」とは人のやることをよく見て、その本質を掴み、技を盗んで自分のものにできる能力です。
イノベーションとはアレンジである
まねばかりしていては、新しいものは生み出せないのではないか? という疑問を抱く人も出てくるかもしれません。とくに今は低迷する経済状況の中で、つねにイノベーション(革新)が求められています。しかし、イノベーションもまた、まねる力を土台として起こってくるものではないか。
「発明王」として名高いトーマス・エジソンですが、実は彼の発明のほとんどが、過去の発明のアレンジによって生まれています。それまでのものをたたき台にして、少し変えていくことによって発明を生み出してきたわけです。また、モーツァルトは模倣によって新しい曲を生み出していたのです。ピカソもまねの達人であったと言えるでしょう。
型をまねることから始める
ここで大事なのが、新しい技術を生み出すには元の「型」が必要だと言うことです。日本の武道や芸道の世界では上達の段階として「守破離」という考え方があります。最初は決まり事、つまり「型」をしっかり学び身に付けて、守る。次に自分にとってより良い型をつくり既存の型を破る。そして最後にこうした型自体から離れて自由になっていく。このステップが「守破離」です。
以前、ラジオの「こども電話相談室」で、回答者の無着成恭さんは「型がある人間が型を破ると型破り、型がない人間が型を破ったら型無しです」と言っています。
この人をまねよ
世阿弥
世阿弥は父である観阿弥とともに、能の大成をなした人物です。世阿弥本人もまた、まねることを重視した人です。世阿弥の書き残した『花鏡』の中に、「離見の見(りけんのけん)」という言葉が出てきます。演じている自分の姿を観客席の方から見ること。つまり客観性を持ちなさいということです。
プレゼンに自信がないという人なら、自分の声をスマートフォンで録音して聞いてみる。そして「ええと」と1分間に何回言ったかカウントしてみる。15秒間で5、6回言ってしまう人も。それくらい無意識に出る癖ですが、それも「離見の見」でチェックしてみる。
松尾芭蕉
松尾芭蕉の功績は、俳句の世界で「蕉風」というスタイルを作り上げたことにあります。そのことで俳句の持つ芸術的価値を格段に高めたのです。「渋い」とか「古い」というイメージもあるかもしれませんが、しかし芭蕉は、常に更新(リニューアル、イノベーション)を心掛けていた人です。
一度作った句でも、あとで変えることがあり、たとえば「古池や蛙飛こむ水のおと」も、最初は「古池や蛙飛ンだる水の音」でした。
千利休
千利休は「茶の湯」という文化を確立し、新しい価値観を自ら創造した人物です。茶の湯自体は利休以前からありましたが、利休はその伝統をすべて学んだうえで、茶の湯の改革に取り組むのです。
坂本龍馬
一般に大人気なのは坂本龍馬です。アクティブに動きながら世の中全体を変えていった自由な行動力が、最大の魅力と言っていい。
「世の人はわれをなにともゆはゞいへ わがなすことはわれのみぞしる」
一番有名な歌ですが、竜馬をまねてみたいと思ったら、この歌を仕事や生活のいろいろな場面でそらんじてみるといい。
このほかに、宮本武蔵、吉田松陰、西郷隆盛、勝海舟などが紹介されています。
まねる人格系読書術
『徒然草』兼好法師
上達の技法を学ぶ。現代人のコミュニケーションやビジネスにも使えるヒントが満載されています。
『ゲーテとの対話』
ゲーテ晩年の9年間を共に過ごしたエッカーマンがゲーテとの会話を書き記した本です。最高のものを求めるヒントがぎっしり詰まっています。
『氷川清話』勝海舟
人間としての骨格を作り、そのスケールを大きくしていくために、意味があります。
『墜落論』坂口安吾
いかにもその気質通りの勢いのある文体で、日本社会の虚妄を鋭く見抜いていた作家です。たまらなくかっこよく感じます。
『夜と霧』V・Eフランクル
彼はアウシュヴィッツの強制収容所から奇跡的に生還した人です。未来を信じ、希望を持つことによってこそ人はその日その日を生きられる、このことを教えてくれます。プロボクシングの村田諒太選手推薦の書です。
『ツァラトゥストラ』ニーチェ
彼の言葉には、どんな断片でもニーチェだとわかるくらいのアクの強さがあります。一言一言がやはり突き刺さるのです。
『留魂録』吉田松陰
「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂」。私は魂をここに置いていくから、君たちが引き継いで、日本のために改革を実現してくれ、とメッセージを送ったのです。
このほかに、『ジャン・クリストフ』ロマン・ロラン、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ウェーバー、『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー、『福翁自伝』福沢諭吉、『私の個人主義』夏目漱石など。
オリジナルのスタイルを作り上げる
まねることの最終的な目標は、オリジナルのスタイルを作り上げることです。いろいろな人の技をまねた結果、それがアレンジされて自分のスタイルができた。今度はそのスタイルを、他の人がまねたいと思うようになる。こうして、向上し合う切磋琢磨の関係性がうまれるのです。