『読書について』 文芸批評の神様 小林秀雄 

 

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一番手っ取り早い
しかも確実な方法だ

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小林秀雄(こばやしひでお)

1902年(明治35年)東京出身。文芸評論家、編集者、作家。文芸批評の開拓者と呼ばれる。批評を創造的に高めた活動は、批評を一文学として確立する。
東京大学文学部仏文科卒。主な著書は『私小説論』『無常といふ事』『モオツァルト』『考えるヒント』など。昭和42年に文化勲章受章。ドストエフスキーベルクソン、アラン、ランボー泉鏡花幸田露伴志賀直哉などに影響を受ける。
1983年(昭和58年)腎不全による尿毒症と呼吸循環不全のため慶應義塾大学病院で死去。享年80歳。

 

小林秀雄の読むことに関する助言

1. つねに第一流作品のみを読め
 いいものばかり見慣れていると悪いものがすぐ見える、この逆は困難だ。こうして育まれる直観的な尺度こそ、後年一番ものをいう。

2. 一流作品は例外なく難解なものと知れ
 近づき難い天才の境地は兎も角、少なくとも成熟した人間の爛熟した感情の、思想の表現である。あわてて覗こうとしても始まりはしない。

3. 一流作品の影響を恐れるな
 真の影響とは文句なしにガアンとやられることだ。こういう機会を恐れずに摑まなければ名作から血になるものも肉になるものも貰えやしない。

4. 若し或る名作家を択んだら彼の全集を読め
 或る名作家の作品全部を読む、彼の書簡、彼の日記の隅々までさぐる。世間が彼にはったレッテル乃至は凡庸な文学史家が解き明かす彼の性格とは、似ても似つかぬ豊富な人間に私たちは出会うのだ。

5. 小説を小説だと思って読むな
 文学に何んら患わさればい眼が世間を眺めてこそ、文学というものが出来るのだ。巧いとか拙いとかいってる、何派だとか何主義だとかいっているのは、いつまでたっても小説というものの正体がわからない。

 

作家の希(ねが)い

 立派な作家は、世間の醜さも残酷さもよく知っている。そして世間の醜さも残酷さもよく知っている様な読書の心さえ感動させようとしている。これが作家の希いであり、夢想である。

 

小説の一番普通の魅力とは

 小説というものの一番普通の魅力は、読者に自分を忘れさせるところにある。自分を忘れ、小説中の人物となり、小説中の生活を自らやっている様に錯覚する。小説中の人物とともに恋愛し、殺人している様に錯覚する楽しみ、この楽しみに身をまかすという事こそ、小説の一番普通の魅力である。

 

教育問題はむつかしい

 あるとき、娘が、国語の試験問題を見せて、何んだかちっともわからない文章だという。読んでみると、なるほど悪文である。こんなもの、意味がどうもこうもあるもんか、わかりませんと書いておけばいいのだ、と答えたら、娘は笑い出した。
 だって、この問題は、お父さんの本からとったんだって先生がおっしゃった、といった。へえ、そうかい、とあきれたが、ちかごろ、家で、われながら小言幸兵衛じみてきたと思っている矢先き、おやじの面目まるつぶれである。教育問題はむつかしい。

 

読書について

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