『資本論』 マルクスを支えた親友エンゲルス
資本主義をひっくり返そう
共産主義の世界をつくり出すべき
映画『マルクス・エンゲルス』4月28日公開
資本主義経済はうまくいくのだろうか
近代経済学の父と言われたアダム・スミスは、市場=マーケットが需要と供給によって値段を決める、余計なことをしないで市場に任せておけば経済は発展するのだという理論を打ち立てました。
しかし、本当に資本主義経済はうまくいくのだろうか、さまざまな問題を引き起こしたのではないか。ヨーロッパ、とりわけイギリスの労働者の悲惨な状況を目にして、資本主義は間違っている、これを何とかしなければならないと、新しい経済理論を打ち立てたのが、カール・マルクスです。
マルクスは、1818年5月5日、まだドイツという国ができる前のプロセインに生まれました。弁護士を目指し大学の法学部に進むのですが、ドイツの哲学者・ヘーゲルに傾倒し、哲学の道に入ってしまう。そしてそこから、資本主義をひっくり返そうではないか、共産主義の世界をつくり出すべきではないかという共産主義運動をするようになり、当時のヨーロッパ各国の当局からにらまれて、転々と逃げ回ります。
最後はイギリスに亡命し、ロンドンの大英図書館に毎日通いつめて膨大な本を読みながら経済の勉強をし、経済学の本を書き上げました。それが『資本論』第1巻です。
マルクスがひたすら『資本論』を執筆し、働かないで研究に専念するための生活費はだれが出していたのかというと、エンゲルスというマルクスの親友です。そのマルクスとエンゲルスの思想を合わせてマルクス・エンゲルス思想と言ったりします。
エンゲルスはお金持ちの息子で、父親が大きな工場を経営していました。マルクスと一緒に共産主義運動に取り組んでいたのですが、親の仕事を継がなければいけないことになり、工場の経営者になります。そして稼いだお金をマルクスにせっせと仕送りしてマルクスの生活費の面倒をみていたのです。
マルクスは『資本論』の第1巻を書いたあと、第2巻、第3巻については途中まで書いた段階で亡くなります。死後、エンゲルスがマルクスの遺志を継いで第2巻以降を完成させました。以下は『資本論』の内容を一部抜粋したものです。
労働が富を生み出す ー 労働価値説
私たちが働いたことによってさまざまな商品やサービスが生まれる。世の中に富が生まれる。労働こそが富を生み出しているのだという考え方を「労働価値説」と言います。労働によってあらゆる価値が生み出されているという考え方です。
そこで資本家と呼ばれる人たちが労働者を雇って労働させる。労働者が労働することによって富が生まれ、財産が生まれ、お金が得られる。そのお金を蓄積していくことによって資本というものが生まれる。資本というのはお金の集まりであるということ。
資本家と労働者
資本家が会社を経営していくと、ライバル企業との激しい競争に打ち勝たないと自分の会社が潰れてしまう。その結果、労働者を低賃金で長時間働かせることになります。資本家が大金持ちになっていく一方で、ひたすら働かされる労働者が生まれていく。
やがて資本家と労働者の激しい闘争が起きるようになり、多くの労働者が立ち上がって、ついには革命を起こし資本主義が崩壊する、これがマルクスの『資本論』の考え方です。
資本家は労働者を「搾取」している
労働力を購入することによって資本家が財産を増やしていく。これが資本主義のメカニズムだとマルクスは考えました。
そこでマルクスは、資本家が労働者を働かせて払った労働賃金以上の利益を生み出す、これはつまり、資本家が労働者を搾取しているのだと考えました。搾り取るということです。
資本家にしてみれば、労働者が安い給料でも働きますよというかたちにもっていくのが一番いい。そのためには必要労働時間をどんどん減らす。そのためにこれまで人間がやっていたものをどんどん機械に切り替えていくことによって、労働生産性を高める。
資本主義経済のもとでは、企業は労働者を少しでも安い給料で採用したい。そのためには大量の失業者が出るように仕向けていけばいい。失業者にしてみれば何とか働きたいから、安い給料でも採用できるようになる。
失業者には窮乏の蓄積がされます。つまり貧困です。資本主義経済においては、お金持ちはどんどんお金持ちになり、貧しい人はどんどん貧しくなり、貧しい人がどんどん増えていく。これこそまさに格差社会です。
社会主義国の誕生
こうして『資本論』を読み、そのとおりだなと思った人たちが、世界中で共産党という組織をつくり、共産主義運動をしていきます。
ロシアではレーニンという革命家が社会主義革命を起こし、ソビエト社会主義共和国連邦という国ができました。中国では毛沢東率いる中国共産党が、社会主義国家である中華人民共和国を建国しました。あるいは北ベトナム、北朝鮮、そして東ヨーロッパ、さらにアフリカ各地に次々に社会主義の国が生まれていきました。
東西冷戦時代、まだ社会主義が崩壊する前、多かれ少なかれマルクスの影響を受けた社会主義の国が世界中にたくさんありました。それだけマルクスの思想、考え方というのが世界的に大きな影響を与えたということです。
- 作者: 池上彰,テレビ東京報道局
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/03/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 4人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
映画『マルクス・エンゲルス』
(マルクス生誕200年にあたる2018年4月28日から全国で順次公開)