社会主義と共産主義の違い
社会主義とは「現実にある制度」
共産主義とは「将来の理想の社会」
- 作者: 池上彰,テレビ東京報道局
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/03/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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資本家は労働者を「搾取」している
社会主義というのは「現実にある制度」で、共産主義は「将来の理想の社会」というふうに考えます。マルクスやレーニンの考え方では、労働者がいくら働いてもそれに見合った賃金がもらえていない、搾取されている、これが資本主義です。
それに対して社会主義は、労働に応じて正当な賃金がもらえるようになる。共産主義になると、生産力がもっと発展して、必要に応じて好きなだけもらえるようになる。レーニンは最終的にはたとえばトイレの便器は金でつくられることになるだろう、といった言い方もしています。
共産主義に発展すると、人々は大変豊かな暮らしができるようになる。そうなると国と国の争いごとはなくなるので、そもそも国家というものがなくなるだろうと考えました。よく ”共産主義国家” という言い方がありますが、あれは形容矛盾で、おかしいんです。共産主義のもとでは国家は存在しないというのが建前ですから。
社会主義のその先に国家がなくなった共産主義というユートピアがある、という考え方なのです。
実際の社会主義国家はうまくいかなかった
実際に理想の社会をつくろうとしたら何が起きたか。すべては計画生産ですから、たとえばソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)では、女性のブーツは来年何足つくるとあらかじめ計画を立てる。すべて計画によって生産過程がコントロールされます。
そうしたらそれだけのブーツが売り出される、それしか買うことができないわけですから、デザイン性などはまったく無視した、本当にダサいブーツしか店頭に並ばないということになる。そうすると、欲しくないから買わない人がでてくる。それによって大量の売れ残りがでます。資源の無駄遣いが起きる。
たまにおしゃれなブーツがでようものなら、あっという間に売り切れてしまいます。いつそれが売り出されるかわからないから、ソ連の国民は常に買い出し袋というものを持って町を歩いていました。どこかに行列ができると、何かいいものを売り出しているに違いない、何を売っているかわからないけど、買っておこう、あるいは買ってみて自分は要らないということになっても人気があればだれかに転売すれば儲かるよねって、とりあえずその行列に並ぶ。
中には行列に並ぶのは面倒くさいな、行列の最後にいくまでに商品が全部売り切れてしまうかもしれない、と店員に賄賂を払って裏でこっそり手に入れる人がでてくる。すると世の中不公平だという不満が高まってくる。ソ連にしても中国にしても、こんな状態になった。
さらには、資本家たちがやがて資本主義に戻そうとするに違いない、だから資本家たちの考え方が世の中に広まらないように言論を統制しようということになります。共産党が管理した言論だけが認められるようになり、自由な言論が抑圧され、共産党を批判する人たちは資本家の手先である、というかたちで捕まっていく、場合によっては処刑されるという状態がずっと続きました。
よかれと思ってつくった社会主義の体制が、資本主義に対して大変な遅れをとってしまったということなんです。その結果、マルクスの思想は時代遅れだよといって否定された。
リーマン・ショック以降の再評価
マルクスが資本主義を分析する限りにおいては、資本主義の問題点というのをかなり的確に指摘している部分があります。しかし、それを解決しようとしてつくった社会主義は大きな失敗に終わってしまいました。
ところが2008年のリーマン・ショック以降、失業者が街にあふれ、派遣切りが次々に起きてきた。マルクスが資本主義について描いたことと同じようなことがまた起きているのではないかということが、いま大きな問題になっている。