『働かないアリに意義がある』 ムシから生き方を教わる

 

働かないひとを「余力」と考えてみる
実はこれが重要なのかもしれない

 

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

 

 

働かないアリがいるからこそ、組織は存続できる

 働き者で知られるアリに、われわれは思わず共感する。だが、生態を観察すると働きアリの7割はボーっとしており、1割は一生働かないことがわかってきた。
 しかも働かないアリがいるからこそ、組織は存続できるという。これらの事実を発見した生物学者が著す本書はアリやハチなどの社会性昆虫に関する最新の研究結果を人間社会に例えながら、わかりやすく伝えようとする意欲作である。(本書見出し)

 

 みんなが疲れると社会は続かない

 植物と違って、目に見えないような速さで動く動物はそもそも、動作の際に筋繊維を伸び縮みさせて動いています。筋繊維が収縮するときに出る乳酸という物質が分解されるには時間がかかるため、すべての動物は動き続けると乳酸が溜まり、だんだん疲れていきます。
 つまり動物は動くと必ず疲れるし、疲れを回復させるには一定期間、休息をとらなければならないのです。そこで「余力」をのこした働き方が重要に。
 疲労の重さに関係なく全員がいっせいに働くシステムよりも、働かないものがいるシステムのほうが、平均して長い時間存続することがわかったのです。

 

働かない働きアリが極めて重要に

 つまり誰もが必ず疲れる以上、働かないものを常に含む非効率的なシステムでこそ、長期的な存続が可能になります。働かない働きアリは、怠けて効率を下げる存在ではなく、それがいないと存続できない、きわめて重要な存在だといえるのです。
 重要なのは、ここでいう働かないアリとは、社会の利益にただ乗りし、自分の利益だけを追求する裏切り者ではなく、「働きたいのに働けない」存在であるということです。本当は有能なのに先を越されてしまうため活躍できない、そんな不器用な人間が世界消滅の危機を救う ー 私たちはこれが「働かない働きアリ」が存在する理由だと考えています。働かないものにも、存在意義はちゃんとあるのです。

 

規格品ばかりの組織はダメ

 ムシの社会が指令系統なしにうまくいくためには、メンバーのあいだに様々な個性がなければなりません。個性があるので、必要なときに必要な数を必要な仕事に配置することが可能になっている。このときの「個性が必要」とは、すなわち能力の高さを求めているわけではないのが面白いところです。仕事をすぐにやるやつ、なかなかやらないやつ、性能のいいやつ、悪いやつ。優れたものだけではなく、劣ったものも混じっていることが大事なのです。

 

「働きたくないから働かない」わけではない

 ムシの社会もいつ何が起こるかわかりません。刻々と変わる状況に対応して組織を動かすためには、様々な状況に対応可能な一種の「余力」が必要になります。その余力として存在するのが働かない働きアリだといえるでしょう。みんな働く意欲はもっており、状況が整えば立派に働くことができます。それでもなお、全員がいっせいに働いてしまうことのないシステムを用意する。
 人の社会ではどうでしょうか。企業は能力の高い人間を求め、効率のよさを追求しています。勝ち組や負け組という言葉が定着し、みな勝ち組になろうと必死です。しかし、世の中にいる人間の平均的能力というものはいつの時代もあまり変わらないのではないでしょうか。それでも組織のために最大限の能力を出せ!と尻を叩かれ続けているわけです。昨今の経済におけるグローバリズムの進行がその傾向に拍車をかけています。

 

「余力」があるからすぐに立ち上がれる

 たとえば、大きな災害が続く日本。いち早くボランティアとして名乗りを上げ、現地へ向かう人たちがいる。学生や、なかには会社を休んで向かう人もいるだろうし、あるいはニートやフリーターなど定職を持たない人だったり、いろいろな人たちがいる。しかし仕事を持っている人は、なかなかすぐには立ち上がれない。これこそ「余力」が発揮される瞬間ではないだろうか。