きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

作家がペンネームを用いる理由

 

ペンネームも作家にとって
作品の一部なのです

 

 

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作家がペンネームを用いる理由

・本名が平凡である。印象が薄い
・読みにくい
・本名を隠したい。勤務先に知られたくない
・本名がキライである

 

 

 

著名な作家のペンネーム

 

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村上春樹(むらかみはるき)
大ベストセラーの『ノルウェイの森』をはじめ、都会的で洗練されたイメージの村上春樹。抜群の知名度を誇るこの名は本名。一見、本名らしくない本名なのでペンネームだと思われがちです。当初は「村上龍角川春樹の名を合わせてできたような、わざとらしい名前」などと言われ、改名を勧められたこともあるそうですが、聞かなかったようです。ただ、のちにペンネームにしておくんだったと後悔のご様子。

村上春樹の唯一の自伝ともいえる『走ることについて語るときに僕の語ること』には、規則正しい生活のことや、スピーチの練習を一生懸命していることなどが語られています。

本格的に日々走るようになったのは、『羊をめぐる冒険』を書き上げたあと、少ししてからだと思う。専業小説家としてやっていこうと心を決めたのと前後しているかもしれない

専業小説家になって何よりも嬉しかったのは、早寝早起きができることだった。朝の五時前に起きて、夜の十時前には寝るという、簡素にして規則的な生活が開始された

講演をする場合は三十分か四十分くらいの英語のスピーチ原稿をそっくり頭に入れて演壇に上らなくてはならない。そのために何度も何度も話し方の練習をする。これは手間のかかる作業だ。しかしそこには自分が何か新しいものに挑戦しているのだという手応えがある

そして最後をこう結ぶ

「もし僕の墓碑銘なんてものがあるとして、その文句を自分で選ぶことができるのなら、このように刻んでもらいたいと思う」
村上春樹
作家(そしてランナー)
1949 - 20**
少なくとも最後まで歩かなかった

 


村上 龍(むらかみりゅう)
本名は村上龍之助。1952年長崎県生まれ。芥川龍之介とは≪助≫の一文字しか違わないので、かの文豪に対して恐れ多い、というので ≪龍≫ 一文字に縮めたんだとか。この謙虚な姿勢が、かの文豪にも届いたのかどうか、24歳のとき、この筆名で書いた『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞しました。代表作に『コインロッカーズ・ベイビーズ』『半島を出よ』など。

 

吉本ばななよしもとばなな
本名は吉本真秀子(よしもとまほこ)。1964年東京都生まれ。父親は批評家であり詩人の吉本隆明。『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞。さて、筆名の「ばなな」はどういう意味か。それは「バナナの花が好きだから」というダイレクトな理由だそう。

 

坂口安吾(さかぐちあんご)
1906 - 1955。小説家、評論家、随筆家。本名は坂口炳五(さかぐちへいご)。中学3年のとき、漢文の授業中に先生から言われた言葉「自己に暗いやつだから、暗五と名乗れ」に傷つき、後々も覚えていて、これが「安吾」に至ったとのこと。無頼派と呼ばれた坂口安吾ですが、こうした繊細な面も。代表作に『堕落論』『桜の森の満開の下」『白痴』など。

 

樋口一葉(ひぐちいちよう)
1872 - 1896。本名は樋口夏子、戸籍名は奈津。「達磨が、一枚の蘆の葉に乗って中国に渡った」という故事からきている。当時困窮していたこと(お足が無い)と達磨には足がない、を掛けている。才能と情熱に溢れながらも、不遇の短い生涯だった一葉だが、そんな人生を筆名でシャレてみることで不幸を笑い飛ばしてみたかったのかもしれない。代表作に『大つごもり』『にごりえ』『たけくらべ』など。

 

武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)
1885 - 1976。小説家、詩人、劇作家、画家。ものすごくそれっぽい名前ですが、本名です。藤原氏から別れた公卿の家系。代表作は『お目出たき人』『友情』『愛と死』など。

 

二葉亭四迷(ふたばていしめい)
1864 - 1909。小説家、翻訳家。本名は長谷川辰之助(はせがわたつのすけ)。筆名の由来は、処女作『浮雲』に対する卑下、特に坪内逍遥の名を借りて出版したことに対して、自身を「くたばって仕舞(め)え」と罵ったことによる。文学に理解のなかった父に言われたというのは俗説だという。代表作は『浮雲』『平凡』『其面影』など。

 

夏目漱石(なつめそうせき)
1868 - 1916。本名は夏目金之助(なつめきんのすけ)。中国の故事「漱石枕流」に由来し、がんこ者、ひねくれ者を意味しているとされるが、もともとは「正岡子規」の数あるペンネームのうちのひとつだった。門下生に芥川龍之介、内田百閒、久米正雄中勘助など多数。

 

司馬遼太郎(しばりょうたろう)
1923 - 1996。戦国、幕末、明治の変革期を舞台とした多数の歴史小説を残した作家、司馬遼太郎。『国盗り物語』『竜馬がゆく』『坂の上の雲』など、その歴史解釈は「司馬史観」とよばれ、死後もなお、多くの読者を獲得しつづけている。近代文明や日本社会に批判を投げかける『街道を行く』などの歴史エッセイの人気も高い。
 本名を福田定一という。ペンネームの由来は、『史記』の作者である歴史家、司馬遷(しばせん)には「遼(はるか)」に及ばない、という謙遜からという。懸賞論文を出すときに近くに置いてあったのが『史記』だったから、と自身のエッセイのなかには書いてある。

 

石田衣良(いしだいら)
1960年東京都生まれ。本名は石平正一(いしだいらしょういち)。代表作は『池袋ウエストゲートパークシリーズ』。見てのとおり、本名由来のペンネームだが、その理由がちょっとユニーク。「仕事の電話がかかってきても”はい、いしだいら”と答えられるから」とあるインタビューでそう語ったという。

 

シェイクスピア
1564 - 1616。シェイクスピアと聞いただけで高尚なイメージだが、書かれた作品が他の者によって書かれたのではないか、という別人説の議論もある。「シェイクスピア」という名前を分割してみると、「シェイク」が振る、ゆさぶる。「スピアス」が槍。つまり「槍を振る人」に。スピアスを「腰」と超訳してみると、妙なペンネーム臭が漂ってますね。

 

西尾維新(にしおいしん) 
1981年生まれ。小説家、漫画原作者、脚本家。この作家のペンネームは回文(かいぶん)だという。回文とは上から読んでも、下から読んでも同じで、たとえば「竹藪焼けた」とか「世の中ね顔かお金かなのよ」、「イカした歯科医」とか。音節だけでなく文字も含めその順番が変わらないもので、言葉遊びの一種だ。西尾維新(にしおいしん)をアルファベットで表記すると「NISIOISIN」で回文となる。代表作は『刀語』『めだかボックス』「伝説シリーズ」など。

 

沖水幹生(おきみずみきお)
1969年岐阜県生まれ。ファンタジー作家。長編青春ファンタジー小説『ルナ』でデビューした。名前が「おきみずみきお」でこちらも回文になっている。

 

西村京太郎(にしむらきょうたろう)
1930年生まれ。小説家、推理作家。代表作に『天使の傷痕』『寝台特急殺人事件』『終着駅殺人事件』など。性は人事院時代の友人の、名は息子のものを取って組み合わせている。黒川俊介や西崎恭というペンネームも使用していた。本名は矢島喜八郎。

 

乙一(おついち)
1978年福岡県生まれ。山白朝子、中田永一の別名義でも小説を執筆している。本名は安達寛高。とにかく若い世代に支持されることが多い。ミステリー、ホラーを得意とされている。そのペンネームの由来は「漢字二文字」で「画数ができるだけ少ない」ものを考えてのこと。漢字二文字というのは、出身であるライトノベルの世界では、イラストを担当する作家の名が二文字のことが多かったからで、画数を減らしたかったのは、画数の多い漢字が好きではなかったからだという。確かに「乙」も「一」も画数は最小限の「1」だ。代表作に『GOTH リストカット事件』『くちびるに歌を』など。

 

俵万智(たわらまち)
1962年大阪生まれ。俵万智といって真っ先に浮かぶのは、260万部を超えるベストセラー『サラダ記念日』だろう。その俵万智、いかにもペンネームといった感じだが、じつはこれ本名なのです。

 

宮部みゆき(みやべみゆき)
1960年東京都生まれ。直木賞を受賞した『理由』をはじめ、『模倣犯』『クロスファイア』など、次々にベストセラーを生む超売れっ子作家である。ところで、本名は「矢部みゆき」。姓名判断をしたところ、本名で作家の仕事をするとノイローゼになるといわれたからだという。ただし、本名とあまりにかけ離れたペンネームにすると、人によばれても自分のことだとわからないおそれがあると、本名に「み」をくわえただけの「宮部みゆき」としたそうだ。