きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

名著『外国語上達法』を読む

 

有名私立大学の教授が勧める1冊
そこには習得を容易にするコツがあった

 

 

外国語上達法 (岩波新書 黄版 329)

外国語上達法 (岩波新書 黄版 329)

 


千野栄一(ちのえいいち)

1932年東京生まれ。日本の言語学者東京外国語大学名誉教授、元和光大学学長。言語学およびチェコ語を中心としたスラブ語学が専門。晩年は「千葉榮一」と表記した。東京外国語大学(ロシア語)卒業。東京大学文学部言語学専攻卒業。ほかに『エクスプレス チェコ語』『プラハの古本屋』『言語学 私のラブストーリー』など。2002年に死去。

 

 

 

著者がここで述べている2つのこと

① 外国語の習得にはその習得を容易にするコツがあり、そのコツを知ることが大切。
② 覚えたことを忘れることを恐れてはいけない。

 
なぜ学ぶのか、ゴールはどこか

 外国語を習うとき、なんでこの外国語を習うのか、という意識が明白であることが絶対に必要である。いい先生、よい教科書、よい辞書があってもうまくこれらの外国語がものにならない人は、目的意識の不足がその原因である。多くの人が英語の学習で涙を流すのは、なぜ英語を学ばねばならないのかについて自分の気持ちが整理されていず、明確な目的がないからである。


必要最小限の知識でいい

 ヨーロッパのホテルで食事をするとウエイターが寄ってきて注文をとる。日本人とは英語で、ドイツ人とはドイツ語で、フランス人とはフランス語で応対する。しかしこの人たちは3か国語が喋れるというよりも、「お飲み物は何にしますか?」といういくつかのパターンを知っているにすぎない。すなわち、この人たちは英語でエリオットを読み、フランス語でサルトルを論じ、ドイツ語でトーマス・マンを楽しむという人たちではない。自分の職業に必要な最小限の知識を備えているにすぎない。これで十分なのであり、ここに学習のヒントがある。
 人間の能力には限界があって寿命も限られているのであるから、必要なだけの英語ができればよく、それで十分なのである。


上達に必要なのはこの2つ

 外国語の上達に必要なもの、それはこの2つ「お金と時間」という。人間はそもそもケチであるので、お金を払うとそれをむだにすまいという気がおこり、その時間がむだにならないようにと予習・復習をするというのである。外国人に日本語を教え、そのかわりにその外国語を学ぶというのはよく聞くが、そうやって上達した人に会ったことがないのは、お金を使っていないからであろう。


毎日少しずつでも繰り返す

 外国語の習得には時間が必要である。まず半年ぐらいはがむしゃらに進む必要がある。これは人工衛星を軌道に乗せるまでロケットの推進力が必要なのと同じで、一度軌道に乗りさえすれば、あとは定期的に限られた時間を割けばいい。1日に6時間ずつ4日やるより、2時間ずつ12日した方がいい。毎日少しずつでも定期的に繰り返すこと。


覚えるのは語彙と文法

 お金と時間が必要なことが分かったが、それではそのお金と時間で何を学ぶべきなのか。それは覚えなければいけないのは、たったの2つ。「語彙と文法」だ。すべての外国語の学習に際して絶対に必要なのは、この2つである。単語のない言語はないし、その単語を組み合せて文を作る規則を持たない言語はない。


学習に必要な3つのもの

 外国語を学ぶためには、次の3つが揃っていることが望ましい。その第1はいい教科書であり、第2はいい教師で、第3はいい辞書である。いい教科書に当たるかどうかで、外国語の習得の難易度は大きく変わってくる。いい先生にめぐり会った人はそのチャンスをモノにすべきである。辞書は文化の一躍を担っている重要な作品である。


繰り返しは学習の母

 言語を人間に例えれば骨や神経は文法であり、語彙は血であり肉である。言語において語彙は大切。絶えず単語帳をめくる努力が必要だ。ラテン語の格言がすべてを物語っている。「繰り返しは学習の母である」と。


まずは1,000の単語を覚える

 ある外国語を習得したいという欲望が生れてきたとき、まずその欲望がどうしてもそうしたいという衝動に変わるまで待つのが第1の作戦である。その衝動によりまず何はともあれ、やみくもに1,000の単語を覚えることが必要である。この1,000語はその言語を学ぶための入門許可証のようなものである。その単語の記憶を確実にするのには、それを書くことをおすすめする。理屈なしに出来るだけ短時間で覚えること。


頻度の高い単語から覚えること

 次にどういう単語を覚えないといけないか。それはよくでてくる単語、言語学的にいえば、頻度の高いものから覚えるべきである。大体どの言語のテキストでも、テキストの90%は3,000の語を使用することでできている。すなわち、3,000語覚えれば、テキストの90%は理解できることになる。残りの10%の語は辞書で引けばいい。これならもう絶望的ではない。そこでもっとも重要なのが最初の1,000語なのである。

 

本書について

 本書は、ある有名私立大学の教員から勧められたものである。「必要なだけの英語ができればよく、それで十分なのである」の一言に、はっとさせられる。完璧を目指さなくていいんだと。今回はエッセンス部分を取りあげたが、詳しくはぜひ本書を読んで頂きたい。文法や学習書のほかに辞書や、発音、会話、教師についても詳しく書かれている。語学上達法の本はたくさん出ているが、名著と呼ばれている本書などを読んでみるのも大いに参考になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 11-2316

『種の起源』 ダーウィンの進化論

 

指折りの科学者
チャールズ・ダーウィン

彼の学生生活やビーグル号の旅を
たどりながら
ダーウィン
進化論の神秘を説く

 

(長文です)

 

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地球 ...
数知れないほどの生命が生まれ
子孫を残しては死んでいく

そうして生命はこの星を覆いつくした

 

学校ぎらいのチャールズ・ダーウィン
船酔いしながら世界中を探検し
生物学の大問題を解明した
それを本にしたのが「種の起源」である

世間の批判に耐えながら出版した
この科学の名著は生物学に革命をもたらし
人間の世界観を変えてしまう

ビーグル号で旅に出たダーウィン
どのようにして進化論に至ったのか

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Charles Robert Dawin  1809-1882
チャールズ・ロバート・ダーウィン
イギリスの自然科学者。卓越した地質学者・生物学者で、種の形成理論を構築。エディンバラ大学ケンブリッジ大学。主な業績に「種の起源」「ビーグル号航海記」「自然選択説」など。73歳没。(チャールズ・ダーウィン Wikipedia)

種の起源」1859年11月24日初版刊行

 

 

 

学生時代

" Wisdom begins in wonder "   Socrates
「知恵は、『なぜ?』から始まる。」
ソクラテス

 

宗教に束縛されない首都エジンバラ

 西暦1825年、近代化の中心のひとつであったスコットランドの首都エジンバラ。宗教に束縛されずに発展していたこの都市ではアイデアが自由に交わされ、北のアテネとまで呼ばれていた。エジンバラ大学、そこは大志を抱く医学生の集まるメッカ。チャールズダーウィンもその中の一人で、当時16歳であった。

 

すべての現象は科学的に説明できる

 化石は昔の生物の残骸だ。それを調べると、生物は徐々に進化していることがわかる。絶滅した種もあった。「種」とは何だろう?  それは生物の分類のひとつをいう。2匹の生き物が子供を産んで血筋を続けることができればその2匹は同じ種のものである。生物には創造主がいて、神がデザインしたと考えられていたが、すべての現象は科学的に説明できると考え、調べはじめた。

 

 「なぜ?」から始まる

 医学に興味のないダーウィンは、聖職者になってほしいという父親のすすめでケンブリッジ大学に入学する。成績は平凡だったが生物学に関しては色々と学ぶ。聖職者兼植物学者ヘンズロウ教授の植物収集の探検によくお供した。教授は、自然は見て憧れるだけでなく、「なぜ」と問い、答えを求めなければならないと教えられる。そんな彼に、運命の旅が待っていた。

 

 

ビーグル号の航海

 

運命を変えた手紙

 ロンドン1831年ダーウィンは22歳。運命を変える手紙が届いた。ヘンズロウがイギリス海軍ビーグル号に博物学者として乗ることを勧めたのだ。そして12月末に旅立つことになった。ダーウィンの一生を変える旅が始まったのだ。

 

アマゾンは生命に満ちていた

 アマゾンは地球のどこよりも生物の種類が多い。撃ち落した鳥をはく製にして、標本を集めてはヘンズロウに送った。ダーウィンにとってアマゾンの毎日は冒険で、天国にいるかのようにうれしかった。ある日は虫の新種を70匹も捕まえた。アマゾンは生命に満ちていた。イグアナ、カイマン、ヤドクガエル、バク、オオアリクイカピバラオセロットジャガー、ピラニアなどなど。

 

生物が進化したのではないか

 アルゼンチンでは、40体を超える化石を掘り出した。化石から昔と今の生物の間に何か関係があることを発見し、生物が進化したのではないかと考えるようになる。アンデスは地球で一番古い山脈のひとつだった。この山は地面が押し上げられてできたのかもしれない。ダーウィンは海の底から山を持ち上げる力に驚いた。

 

ガラパゴス

 1835年、ガラパゴス。ガラパゴとはスペイン語でカメのことだ。ダーウィンガラパゴスで見つけた生物は新種ばかりだった。そして、この遠足のような毎日が大発見につながっていくとは誰が予想できたであろう。標本はかなりの量になっていた。
 ダーウィンはのちにいった ... 「ガラパゴス諸島での旅が私の全ての考えの原点であり、ビーグル号での航海が私の全生涯の道を決定した。

 

 

新しい説

 

進化のメカニズムを探求

 1836年10月、5年ぶりのイギリス。ガラパゴスと南米は地形も気候も違うのに、生息する動物は似ていた。大陸から移住したのかもしれない。そして生物はそれぞれの島の環境に合わせて進化していったのだろうか。
 生命だけが全く変わらなかったとしたら、いずれは地球の変化についていけなくなって絶滅してしまう。やっぱり生命は進化したのだろうか。ダーウィンはその「進化」の背後にある真のメカニズムを探し始めた。

 

マルサス『人口の原理』の影響

 イギリスの経済学者トーマス・マルサス1798年『人口の原理(人口論)』を匿名で出版した。彼は人間の数が食料より速く増えるので、戦争、疫病、飢餓などで人口増を食い止めるしかないと言った。
 英国の産業革命で大幅に人口が増え、マルサスがいたロンドンでは3人に2人は5歳までに死ぬ有様だった。食べ物には限りがあるから貧しい人をむやみに助けるべきではない、と主張したのだ。ダーウィンへの影響は大きく、それは本当にすごい結論だった。

 

頼もしい味方がついたダーウィン

 時はたち、1839年ダーウィンはいとこのエマ・ウェッジウッドと結婚し、ロンドンの郊外に引っ越した。それからは数多くの著書をだし、植物学者のジョセフ・フッカーや動物学者のトーマス・ハクスリーなどがダーウィンの味方についた。
 ダーウィンは文献を読みあさり、大勢の学者と文通し、何万もの植物や動物を飼ったりしながら実験した。

 

フジツボの研究で世界的権威に

 10年間も没頭したフジツボの研究では世界権威になり、一人前の博物学者として認められた。ところが進化論に関しては発表するまで20年も静かにしていた。なぜそんなに時間がかかったのだろうか。
 証拠のない説はただの仮定でしかない。その上、進化は人生の間で直接見られるものではないため、多くの間接的な証拠を集める必要があった。ところで、ダーウィンの研究は現在でもフジツボの学問の基盤となっている。

 

進化論はキリスト教を崩すことに

 ダーウィンの進化論説は過激であり、出版をためらっていた。ロバート・チェンバースは生物が神に創造された後、止まることなく変化していることを化石が証拠づけていると言ったが、罰当たりだと猛烈な抗議にさらされた。神が創った完璧な動物が変わるハズがないと。進化論はキリスト教の基盤を崩し、社会をメチャメチャにしてしまうと非難された。フランス革命が起こったのもこういった自由な思想が原因だとされていた。

 

もうひとりのダーウィン

 ダーウィンが証拠を集めている間、マレー諸島で生命の神秘の解答に近づく男がもう一人いた。アルフレッド・ラッセル・ワラスは貧しい自学の博物学者だった。熱帯の病気にかかりながらも探検を続け、進化によってできた新種を探してした。そして彼も進化が生存闘争によって生じることに気づいていたのだ。

 

ワラスとの共同発表

 1859年7月、ロンドンのリンネ会でダーウィンとワラスの共同発表となった。ワラスは人がよく、最後までダーウィンと仲が良かった。
 ダーウィンの「種の起源」は同じ年の11月24日に出版され、大ヒットし、その日のうちに1冊残らず売り切れた。しかし、その結論が気にいらない人のほうが多かった。「種の起源」は科学者にも衝撃を与え、ダーウィンの進化論は難産の説だった。なお、膨大な証拠があるにもかかわらず、進化を認めない人は今の時代でもいる。

 

 

ダーウィンの進化論

 

環境に順応している生命

 生命は環境によく順応している。例えば、ホッキョクグマは私たちがとても住めない北極にいる。あの白い毛はガラスのように透明で光ファイバーのようにできている。この毛を通して、太陽光のエネルギーを体の方に送っていく。
 また、ある種のアリは5千万年前から農業をしている。ハキリアリは巣に葉っぱを持ち帰るが、その場では食べない。持って帰った葉っぱをカビに分解してもらってから食べるのだ。カビなしではアリは餓えてしまうし、アリなしではカビも生きられない。

 

サケはなぜ生まれた場所に戻れるのか

 イヌは人間の百万倍の嗅覚を持っている。においだけで誰だかわかってしまうほどだ。もっとすごいのはがサケで、自分が生まれたことろの味を覚えている。川の水は場所によって微妙に違う。まわりの植物や土によって、川に溶け込んでいる成分が異なっている。生れてからサケは故郷を離れ、川を下る。海に出て成熟するまで数年暮らす。その間、故郷の味は一時も忘れてはいない。広大な海から故郷の川を探し、流れをさかのぼり、まわりの水を味見しながら生まれた場所に戻る。生命は奇跡的なほどに環境によく順応して生き抜く術を備えている。

 

特徴の選択と変種

 生物には「変種」がいる。同じ人でも見かけは多彩だ。トマトであれ色々な大きさに育つが、大きいものを選んで交配すれば、大きさを強調できる。人はこうして食物を改良してきた。種なしスイカも小さい種のスイカを選びながら栽培した。犬の種類は多いがほとんどが人間によって改良されたものだ。
 旧約聖書にも人間が家畜の飼育をしていたと書いてあり、古代中国の百科事典やローマの記録にも品種改良のルールがしっかりと記述してある。

 

生存闘争と適者生存

 人間が生物を進化させたわけではない。自然界の生物は生き残るのに精一杯だ。サケの場合、2,000個の卵のうち、1,000匹生まれ、その中から150匹が稚魚になり、大人まで育つのはわずか2匹。最後には1匹だけが故郷に戻り、子供を産む。非常にシビアな世界だ。飼育の場合は人が特徴を選択して種が進化していくが、自然界では死ぬか生きるかの「適者生存」の選択が起きる。しかし家畜の改良をする人間はたかが1万年しか存在していない。それに比べ、生命の歴史は40億年、人がいない自然ではどう特徴が選択されてきたのだろうか。

 

自然淘汰」による進化論

 人が飼育する時と同じく、自然界でも変種がたまに生まれた。子孫を残す前に死んでしまう弱いタイプの者は次の代に自分の特徴を遺伝できない。しかし、有利な特徴をもった変種が比較的多く子孫を残す。こうして世代ごとに特徴が変わっていき、元の種の者と子供ができなくなるくらい変わってしまったときに新しい種ができる。
 つまり厳しい自然界を生き延びた変種の特徴が遺伝し、その特徴が積み重なることで進化していくのである。これが「自然淘汰」による新しい種の起源であり、進化論である。

 

植物の最高の智恵

 自然界での試練は無数で、子孫を残す術も問われる。子孫を残すため、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ように何万個も産む者もいる。逆に、ほ乳類は少なく産むが子供を大事に育てる。多くの植物の花粉は風に運ばれ、受粉して種ができる。でも風だけじゃ頼りない。そこで大昔、花から蜜が出る変種があらわれた。虫が花粉を確実に運んでくれるので蜜を作る植物は繁栄した。

 

親指がもたらした繁栄

 人間は何百万年もアフリカで進化し、そこから世界に広がって繁栄した。人間の特徴に親指がある。このおかげで器用なことができるようになった。化石から推定すると、人の祖先は400万年前に木からおり、250万年前に石で道具を作り、肉をもっと食べるようになり、脳が大幅に大きくなっていった。人間で一番特別なのは脳なのかもしれない。ネアンデルタール人のように脳が大きく、人間に似た種は他にもいたが、みな絶滅した。

 

人間にとって必要な精神世界

 他の動物とは違い、昔から人間は死人を葬るとき墓を作って装飾品や大事な物を一緒に埋めた。美術などの芸術も自然界では類を見ない特徴だ。生き残るのに芸術は必要ないと思うが、そういうことを可能にした脳が、他の面で力を発揮している。人間は知識を後世に伝承し、遠く離れた同類に知識や情報を伝え、さらに発展し、複雑な社会も可能にした。進化は遅いから我らと6万年前の祖先とはほとんど同じだ。いまの文明が6万年前の祖先より進んでいる理由は知識の違いである。

 

現在でも進化論を教えない学校がある

 ところで、今でも進化論を否定する人が多くいる。宗教の一部からはとくに嫌われている。人は不思議なことには神という理屈をつけがちだ。聖書は地質学と矛盾し、ダーウィンの進化論説が現れ、人々は聖書をどう解釈して良いのか迷うのだろう。現在のアメリカ合衆国でも宗教団体の圧力で、天地創造説を同等の説として学校で教えようとしているところがある。また進化論を教えていないとこもあるのだ。

 

ガラパゴスの生命と適者生存

 生命は常に自分が生きていく時間と空間の隙間を探している。別の世界でエサを探すように進化したウミイグアナは海藻を主食にしているので食べ物には困らない。今ではイグアナの中で一番繁栄している。大昔にエサが減り、海に潜ってエサをとる者が現れた。そうして海に順応するように進化していった。海に住まいを求める進化は正解だった。ガラパゴス諸島は天然の実験室だった。

 

生き残ることよりも大事なこと

 セミは17年の生涯のほとんどを地面の中で過ごし、土からはい出て、残りの2週間で大人になる。オスのセミは鳴いてメスを呼び、相手を求め、子供を作って死ぬ。カマキリのオスはメスと交尾した後に食われる運命にある。子供を作ることは、もしかしたら生き残ることより大事かもしれない。子供なしに死ねば、その世代でおしまいだから。

 

生命体の持つ本能

 本能とは、生まれつき身に付いている習慣であり、不思議なものでもある。 ミツバチの集団を見てみると、女王バチ、オス、中世の働きバチがいて、仕事の分配がしっかりと決まっている。女王の役割は卵を産むことにある。オスは一切働かず、春の交尾シーズンになるまで毎日ぶらぶらしている。が、春になるとオスは互いに殺し合い、勝者だけが女王と交尾し、本望を果たしたところで死ぬ。命がけなのだ。たとえ交尾合戦を生きのびたとしても食料を消費するオスは用無しなので外に追い出され、餓え死ぬ。逆に働きバチはまじめだ。蜜を集めたり、子供や巣の面倒をみたり、女王バチにエサを与えたりし、そして巣を危険から守る。
 これらの役割はみな本能によって生まれつき知っているのだ。このような本能はハチの巣全体の利益になるため、自然淘汰によって強調されていったのだろう。自然淘汰は集団でも働くということであり、本能こそ生き抜くのに不可欠なものである。

 

 

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心理学者フロイトに与えた影響

 ダーウィンの時代までは、人間や動物の思考や感情は説明しきれないあいまいなものとされていた。性に関係した本能を科学的に説明しようとしたダーウィンは知らずに新しい分野を開拓し、人間心理学の創始者フロイトにまで深く影響を与えた。

 

地理による障壁と生物の移住

 自由な移動を妨げる地理的な障壁も新しい種を作る大事な要素だ。遠く離れてしまった種は別々に進化し、いずれは別の種になる。地理そのものも時間とともに変わる。巨大な氷河は地面を切り裂き地表を大きく変えてしまう。アメリカとアジア大陸が陸続きになっていた時期、マンモスやバイソンがアメリカに渡り、アジア人種も移住して北米のアメリカンインディアンや南米のインディオとなった。地理の困難を克服できる者は種にとって新しい可能性を切り開く勇者なのだ。

 

進化に方向性はない

 大昔の世界はたった1つの細胞でできた微生物ばかりだったが、時は経ち、多細胞のものが現れ、やがて我々のような複雑な生物が現れた。確かに人間のように複雑な生命に進化するのには時間がかかる。だからといってそれが必然的な方向だとは限らない。環境に適していれば種として繁栄するし、適していなければ絶滅するまでなのだ。進化の方向は周りの環境との戦いによる。

 

種の絶滅

 恐竜の化石はある層でいっぱいみつかるが、層が変わると一切なくなって、ほ乳類が多くなる。何か大変なことが起きて恐竜は絶滅したのだろう。このようにほとんどの種を絶滅してしまう程の出来事がここ5億年に5回くらいあった。こう化石を調べると、いつ、どの種が消えてしまったかがわかる。また天変地異などがなくても絶滅してしまった種はたくさんある。化石の記録によると、種は平均100万年で絶滅している。地球に現れた種すべてのうち、1%しか今は存在しない。

 

人間も種の絶滅に追いやっている

 体が大きければ食べ物も多く必要になるが、恐竜は6500万年前にエベレスト山の大きさの隕石が地球に落ち、環境の変化について行けなくて絶滅したと言われている。とにかく全体から見れば絶滅は良いとも悪いとも言えない。限りある資源の中で起こる進化の必然的な要素なのだ。種が絶滅するのは自然。だが最近では人間が色々な種を絶滅に追いやっている。

 

 

エピローグ

 

哲学と文化に多大な影響を与えた

 「種の起源」の影響はダーウィンが思ったより遥かに大きく、後戻りできないほど人類の哲学と文化に影響を及ぼした。それまで多くの人達は自分を神に特別に創られた者と考えてきたが、コペルニクスが地球は宇宙の中心ではないと言った時、人々の宇宙観が変わったように、ダーウィンの進化論は神が人に特別な立場と権利を与えたわけではないことを暗示した。ダーウィン進化論をもとにハクスリーやヘッケルは「人間は猿と共通の祖先を持つ」という研究成果を挙げ、人間は更に特別な存在ではなくなった。

 

全ての生き物は一つの根源に

 大昔、地球を支配していた恐竜が絶滅したのも何かの激変があったためだろう。そのような偶然の出来事がなかったら、今は恐竜の世界になっていたろう。そう考えると現在人間がいるのは運命の気まぐれかもしれない。
 ダーウィンは、人間とは自然の中で生き延びてきた生物達の平凡な一員で、全ての生き物は一つの根源を持つだろうと言う。
 

 私たち生命の背後には数え切れないほどの先祖がいる。一つ一つの生涯はたとえ小さくとも、生命の壮大な物語には欠かせない一節だ。その物語は命が自然の中で磨かれてきた歴史でもある。その歴史があるからこそ、今の私たちがいる。

 

 

 *『種の起源』は世界の名著です。今回の記事はほんの一部に過ぎません。ぜひこの機会に購読をおすすめします。なお、上記はマンガ「種の起源」から抜粋・要約しています。

 

 

 

 人間の誕生、存在は「ほんの一瞬」

 

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宮城県環境科学協会

 

 

 

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

 
種の起原〈上〉 (岩波文庫)

種の起原〈上〉 (岩波文庫)

 
マンガ「種の起源」 (KS自然科学書ピ-ス)

マンガ「種の起源」 (KS自然科学書ピ-ス)

 
人口論 (光文社古典新訳文庫)

人口論 (光文社古典新訳文庫)

 
人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

 
マルサス人口論の200年 (シリーズ・人口学研究)

マルサス人口論の200年 (シリーズ・人口学研究)

 

 

 

 

 

 

 

 

 33-8095

読まずに死ねない名著「古典は人生の栄養です」

 

今こそ読みたい絶対名著
知のソムリエが選ぶ名著の数々

 

 

*「日経おとなのOFF 2018年8月号」より抜粋。詳しくは本誌をご覧ください

日経おとなのOFF 2018年 8 月号

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★古典にハズレなし! 心の赴くまま読めばいい

出口治明(でぐちはるあき)
ライフネット生命保険株式会社創業者
立命館アジア太平洋大学学長

 

出口流 古典を面白く読む3原則

①気になった本を読んでみる
②分からなくても気にしない
③読み続けることで世界が変わる

 

出口さん推薦の古典12冊

*政治が分かる古典

職業としての政治 (岩波文庫)

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カエサル戦記集 ガリア戦記

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貞観政要 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)
 
コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)

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*経済が分かる古典+現代の名著

雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)

雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)

 
国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

 
戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

 

 *歴史が分かる古典

史記列伝1 (岩波文庫 青214-1)

史記列伝1 (岩波文庫 青214-1)

 
歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)

歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)

 
王書―古代ペルシャの神話・伝説 (岩波文庫)

王書―古代ペルシャの神話・伝説 (岩波文庫)

 
定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険2期4)

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険2期4)

 

 

 

 

 

★人間の特権は「考える」こと。哲学を知れば人生は変わる

鹿島 茂(かしましげる
フランス文学者、評論家
明治大学国際日本学部教授

 

哲学的に考える4つのポイント

①すべてを疑う
②分けて考え、比較する
③簡単なものから複雑なものへ
④可能性を列挙しよう

 

鹿島さん推薦の人生を豊かにする9冊

*哲学が分かる古典+現代の名著

饗宴 (岩波文庫)

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方法序説 (岩波文庫)

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ニーチェ全集〈8〉悦ばしき知識 (ちくま学芸文庫)

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堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

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ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫 赤510-1)

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男らしさの歴史 1 男らしさの創出 〔古代から啓蒙時代まで〕 (男らしさの歴史(全3巻))

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はじめての構造主義 (講談社現代新書)

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欲望論 第1巻「意味」の原理論

欲望論 第1巻「意味」の原理論

 

 


 

 

 

 

『キャラメル工場から』 もうひとつのプロレタリア文学

 

大江健三郎も認める
現代文学の流れのなかで
最上の短編小説の書き手である
佐多稲子

 

小林多喜二の『蟹工船』と同時期に発表された、佐多稲子の『キャラメル工場から』にも労働者の姿がありのままに描かれている。そこにあるのは「少女たちの集団労働」だ。 

 

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佐多稲子(さたいねこ)
1904年(明治37年)-1998年(平成10年)。長崎市生まれ。本名は佐多イネ。小説家。出生当時、両親はいずれも学生で十代だったため、戸籍上は複雑な経緯をたどっていた。母親を結核で亡くし、小学校終了前に一家で上京、稲子は神田のキャラメル工場に勤務する。このときの経験がのちに『キャラメル工場から』という作品にまとめられ、彼女の出世作となる。ほかに『くれなゐ』『樹影』『夏の栞』など。女流文学賞、野間文学賞川端康成文学賞毎日芸術賞読売文学賞などを受賞。1998年、敗血症のため死去。

 

 

大江健三郎も認める近現代の文学者

 大江健三郎の講演集である『「話して考える」と「書いて考える」』に、日本近代・現代の最良の文学者たちと信じる、中野重治の「美しさ」や佐多稲子の「おもい」につい語っている。

 佐多稲子は、もちろん長編小説の秀作を幾つも残していますが、日本近代・現代文学の流れのなかで誰もが認める、最上の短編小説の書き手でありました。今日私が申しあげたことを、たとえば『私の東京地図』や『時に佇つ』の短編連作で読みとっていただければ、それは読む人にとっての新しい幸いともなることだろうと思います。
 さらに、あらためて『夏の栞』を読む方には、この長編の第三部としてまさに優れた短編がしめくくっている

 

 

プロレタリア文学

 以前、小林多喜二の『蟹工船』(1929年)が若い世代を中心にベストセラーになった。船員たちの「厳しい労働条件」を描いた『蟹工船』の世界観が「非正規雇用」や「所得格差」などの「経済不安」に通じるものがあったからだろう。このような「労働者の厳しい現実」を描き「その苦しさからの解放」を訴えた作品は「プロレタリア文学」と呼ばれている。蟹工船と同時期に発表された佐多稲子の『キャラメル工場から』(1928年)は 作品名の「キャラメル工場」から「チャーリーとチョコレート工場」などファンタジーな内容を想像してしまうが、実際には作者が幼少期に体験した「少女たちの集団労働」の現場が描かれている。

 

 

『キャラメル工場から』

時代背景

 大正時代以降は大都市に「資本」そして「工業」が集中するようになり、東京にもたくさんの労働者が流れ込んだ。しかし、このような都市への人口の流入は「貧富の差」を大きく拡大することに。上京した佐多一家もこうした都市への流入者の一家族だった。

 

「一家の窮状」を助けるべく「女工」へ

 大正4年「主人公のひろ子」は尋常小学校5年生の11歳。上京した父親は東京での新しい生活に適応できず自ら仕事を探そうともしない。同居していた父の弟も病気で床についたままだった。母親の内職だけでは暮らしていけず、一家は生活に窮していた。そしてある晩、新聞で「キャラメル工場の求人」を見た父は「ひろ子も一つこれに行ってみるか」と思いつきのように言い出した。父親はひろ子の気持ちなど全く無視して話を進めてしまった。こうしてひろ子は「一家の窮状」を助けるべく「キャラメル工場」へ「女工」として通うことになった。

 

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「少女たちの集団労働」の現場

 ひろ子はまだ薄暗い中、朝ご飯を済ませ急いで仕事へと向かう。工場には「遅刻」がない。工場の門が閉められるのは「朝7時」。少しでも遅れるとその日は否応なしに休まされた。彼女たちの「わずかな日給」から遅刻の分を引くのが面倒だったからだ。
 工場では「すきま風」が遠慮なく吹き込む中で「立ち仕事」が延々と続く。夕方には足が棒のようにつり、体中もすっかり冷え込み「目まい」や「腹痛」を起す子もいた。
 従順に働く女工たちだったが、退勤前にはキャラメルを無断で持ち帰らないように毎日チェックを受けた。「袂(たもと)」・「懐(ふところ)」・「弁当箱」の中を全て調べられた。みんなは自分の番が来るのを「吹きさらし」の中、ずっと待っていた。

 

わずか1ヶ月で工場を辞めることに

 女工たちは「徒歩」で通える所に「働き口」を探すのが普通だった。しかし、ひろ子の父親が選んだ工場は電車で40分もかかる所にあった。実は彼女の日給は電車賃を引くといくらも残らなかったので働いても意味がなかった。
 さらに工場の求人は「13歳以上」と定めてあった。実際は11歳だったひろ子は13歳と偽って働いていたのだった。他の女工たちよりも体も小さく幼いため上手にキャラメルを包むことができない。夕方までにみんなはキャラメルを「5缶」仕上げてもひろ子は「2つ半」が限界だった。やがて工場の賃金は「出来高制」に代わり「2つ半」しか仕上げられないひろ子の賃金は「3分の1」に減らされてしまう。それが原因でひろ子はわずか1ヶ月でキャラメル工場を辞めることになった。

 

郷里の学校の先生からの手紙

 その晩、ひろ子は「もう働きに行かなくてもいいんだ」と思い久しぶりに「安心」して眠りについた。ところが、またもや父親の思いつきで今度は「中華料理屋」に「住み込み」で働かされることに。ある日、小学校時代の先生から手紙がきた。その手紙には次のように書いてあった。
だれかから、なんとか学費をだしてもらうよう工面して― たいしたことでもないのだから、小学校だけは卒業するほうがよかろう
 ひろ子は仕事中唯一自由になれる「便所の中」に隠れて手紙を読んだ。暗い便所の中で何度も読み返しては「涙」を流す。この時は既に「住み込み」で働いていた彼女に「学校に戻る道」はほとんど残されていなかったのです。

 

 

 

キャラメル工場から―他十一篇 (1959年) (角川文庫)

キャラメル工場から―他十一篇 (1959年) (角川文庫)

 
母六夜・おじさんの話 (21世紀版・少年少女日本文学館17)

母六夜・おじさんの話 (21世紀版・少年少女日本文学館17)

 

 

 

 

 

 

 

 07-2571

アメリカが「世界の警察」をやめたら

 

アメリカが「世界の警察」をやめたら
同盟国は国債を売りに走り
ドルは暴落することに

 

 

本書『ニュースの”なぜ?”は世界史に学べ2』から備忘録用として要約しています

 

 

ユーロの信用が一気に低下

 EUは、移民問題と統一通貨「ユーロ」の価値が下落したままという深刻な問題を抱えている。2009年、ギリシア財政赤字の危機的実態が判明し、ユーロの信用が一気に低下した。ギリシアの国家財政が破綻し、債務不履行(デフォルト)となる不安から、ギリシア国債が暴落し、それにつれてユーロも下落。これを「ユーロ危機」という。

 
EUはなぜギリシアを見捨てないのか

 ユーロ危機の引き金となったギリシアは、EUの問題児。それにもかかわらず、なぜEUギリシアを見捨てずにいるのか。理由のひとつは、ギリシア地政学的重要性。19世紀以来、イギリスやアメリカ、ロシアとの間で駆け引きの舞台となってきたこと。東地中海に突き出た位置にあるギリシアを重要視しているロシアと、ロシアの進出を食い止めたいEUの間で綱引きをしているため、問題児であってもギリシアを支援せざるを得なかった。各国が争奪を繰り返す、「地中海の朝鮮半島」ともいえるのがギリシアだ。

 

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「世界のお金」になりたいユーロ

 もうひとつ、EUギリシアを手放せない理由は、統一通貨「ユーロ」の価値下落にあった。それは目指す基軸通貨としての問題である。ここで「通貨の価値が何で決まるか」について考えてみる。お金は紙切れにすぎない。なぜ、ただの紙切れに価値があるのか。
 もともと紙幣は、金貨や銀貨と交換していた。「紙幣〇枚と金貨〇枚を交換しよう」という具合に取引が成立していた。つまり、金貨が本当のお金で、紙幣は「交換券」だった。これを金本位制という。そうした時代が長く続き、第2次大戦後は金と交換できる米ドルが、貿易決済で使われてきた。

 
アメリカが貿易赤字国に転落

 ところが、1971年、この金ドル本位制が突然、終焉を迎える。当時、世界でいちばん金持ちだったアメリカが、貿易赤字国に転落する。日本やドイツの自動車をアメリカ人がたくさん買ってしまったから、その代金を払う必要が生じた。それまで金とドルを交換する金本位制で取引していたから当然、日本やドイツの自動車会社は代金を金で請求する。その結果、アメリカが貯め込んでいた金(ゴールド)が、東京やドイツのフランクフルトに流出し、底を突きそうになった。

 
ニクソンショック

 そこで、当時のアメリカ大統領のニクソンは突然、「今日から金とドルの交換をやめる」と宣言した。世界の経済秩序を変革する大きな決断を他国に知らせずに、突然実行した「反則技」だった。こうして金ドル本位制が突如終わりを迎えた。これをニクソンショックという。
 しかし、アメリカは貿易赤字を続け、手持ちの金はほとんどないにもかかわらず、経済破綻することなく世界中で戦争を行うことができた。

 
ドルが持つ価値

 なぜだろうか。それは、金本位制の終焉後も、ドルが価値をもっていたからである。流通量と信用の点で他の通貨を圧倒していたからだ。基軸通貨として世界中で流通していたから、ドルは価値をもつことができたのである。
 たとえば、仮にアフリカのジンバブエ共和国が「石油を買いたい」といい、そして「代金はジンバブエ・ドルで払う」といわれたらどうか。ジンバブエという国の知識がある人であれば、「米ドルで払ってほしい」というだろう。ジンバブエは最貧国のひとつで通貨は紙くず同然で、財政破綻を意味する。

 
同盟国がアメリカの国債を引き受ける

 その点、アメリカという国家が財政破綻することは考えにくい。アメリカは多額の借金を抱えているが、一方でアメリカが発行する国債(借金証書)は必ず売れる。アメリカの同盟国が分担してアメリカの国債を引き受けてくれるから、アメリカはいくら借金をしても大丈夫なのである。
 財政破綻するリスクがきわめて低いということは、ドルが暴落する心配もない。だから、米ドルは金本位制をやめたあとも、価値をもち続けることができた。

 
アメリカの国債を最も多く買う日本

 ちなみに、アメリカの国債を最もたくさん買っているのは、日本だ。近年、中国が日本を上回る時期もあったが、最近は中国経済が下り坂のため、保有するアメリカ国債を売ってドルを調達している。
 では、なぜ日本はアメリカの国債をそんなに購入しているのか。敗戦国で「子分」になったから逆らえないという面もあるが、いちばんのポイントは「安全保障」である。

 
米ドルの信用を支える軍事力

 北朝鮮や中国の軍事的挑発にさらされている日本にとって、日米安保条約のもと、世界最強のアメリカ軍がバックについてくれることほど心強いことはない。米ドルの信用を支えているのは、米軍の軍事力だ。
 アメリカが「世界の警察」の役割を果たしているうちは、日本をはじめ世界中のアメリカ同盟国がアメリカ国債を買う。逆にいえば、アメリカが「世界の警察」をやめたら、同盟国は国債を売りに走り、ドルは暴落することになる。そういう意味では、アメリカが完全に「世界の警察」をやめるというシナリオは考えにくい。

 

 

 

本書『ニュースの”なぜ?”は世界史に学べ2』では、日本人が知らない101の疑問に答えています。以下はその一部です

・トランプを支持したのは誰か
アメリカとロシアは仲良くできるのか
プーチンはトランプをどう見ているのか
・フランスがドイツを恐れるのはなぜ
・イギリスの「EU離脱」はなぜ起きたか

プーチンはなぜ安倍首相と仲良くするのか
プーチンが日本と手を組む意外な理由とは
・なぜ共産主義の中国が経済成長できたのか
・なぜ中国は領土を広げようとするのか
・中国が尖閣諸島に執着する理由とは

・なぜ朝鮮半島は2つに割れたのか
金正男が暗殺されたのはなぜか
アメリカは北朝鮮を攻撃するつもりがあるのか
北方領土問題は解決するのか
・日本が北方領土を取り戻すシナリオとは

など

 

 

 

 

 

 

 

10-2571

凧になったお母さん 野坂昭如

 

昭和20年夏、アメリカの空襲で火の海となった町の中
カッちゃんとお母さんは近くの公園に避難しますが ...

 

 

 

 

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野坂昭如(のさかあきゆき)
1930年(昭和5年)-2015年(平成27年) 作家、歌手、作詞家、タレント、政治家。早稲田大学第一文学部仏文科。代表作は『おもちゃのチャチャチャ』、『アメリカひじき』、『火垂るの墓』など。主な受賞歴は日本レコード大賞作詞賞、直木賞吉川英治文学賞泉鏡花文学賞講談社エッセイ賞など。2015年に心不全で死去。85歳没。

凧になったお母さん
『凧になったお母さん』は、野坂昭如の小説、およびそれを原作としたアニメ。戦争童話集の一作で、太平洋戦争の戦火の中で、我が子が脱水症状にならぬように、自らの水分を与え続けた母親の物語。初版は1983年。中学3年生の国語の教科書に記載された。

 

 

 

空襲におびえる神戸でお母さんと暮らすカッちゃん

 港湾施設と軍需工場があるため、日々空襲におびえる神戸の町でお母さんと暮らすカッちゃん。お父さんは兵隊になって南方で戦っていた。
 聞き分けのいいカッちゃんだったが、ときおり父親を恋しがってむずかることもあった。そんな姿にカッちゃんの命だけは何があろうと守り抜こうと決意するお母さんでした。

 

焼夷弾を落とされ近くの公園へ避難

 ある日、ふたりの住む町にB29が来襲し、大量の焼夷弾を落とし始めます。燃え上がる家々。その炎に追われて逃げるお母さんとカッちゃんですが、お母さんは幼いカッちゃんを連れて遠くまで逃げることができません。
 そんな中、カッちゃんはお母さんに連れられなんとか近くの公園に避難することができました。しかし、火は次第にふたりに忍び寄り、カッちゃんの体は熱さでカラカラに。水を探しましたがありません。「熱いよう」と訴えて意識を失うカッちゃん。

 

もうお母さんは目も見えなくなりました

 そこで何とかカッちゃんを助けたいお母さん、滝のような自分の汗をカッちゃんの顔に塗りました。一時、カッちゃんの顔に潤いが戻ります。でも汗はすぐに出なくなりました。そしたらお母さん、何もしてあげられない自分が悲しくなったのでしょうか、涙が出てきました。
 世の中に、どんな苦しい病気があるのか知らないけど、じりじりと火にあぶり殺されるなんて、これほどの苦痛はないだろう、どんなわるいことをしたというの、カッちゃんが。お母さんは、自分の気持ちを悲しい方へ悲しい方へ追いやり、そのつどあふれる涙をカッちゃんの肌へうつしてやりました。そして遂に涙も出なくなりました。煙のせいか涙が枯れたせいか、もうお母さんは目も見えなくなりました。

おやすみなさい 勝彦さん
おめめをつぶれば あなたのお国
怖いものは 何もない
おねむりなさい 勝彦さん
怖いものなど 見なくていいのよ
あなたはまだ 五つだもの

 お母さんは、口から出まかせに唄い、本当にどうせ駄目なのなら、カッちゃんが寝ているうちに死んでくれればいいと思いました。

どうしても死ぬのなら 苦しみ少なく
どうしても死ぬのなら ねむりの内に
どうしても死ぬのなら 夢みている間に
どうしてもその分の苦しみは 私に与えて下さい
どうしても死ぬための おやすみなさい
どうしても死ぬための 子守唄を 私に与えて下さい

 

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次第に意識が薄れていきます

 意識がもうろうとする中、カッちゃんがお母さんの乳房を吸っているのを感じ、必死に乳房をわしづかみして母乳をしぼり出し、カッちゃんに塗ってあげます。しかし、やがて母乳も尽きてしまいます。
 次第に意識が薄れゆく中、どこかにカッちゃんを潤してくれる水はないか、ミズミズと呪文のように繰り返すうち、お母さんの毛穴から血が吹き出し、抱きすくめるカッちゃんの体をしたたり流れます。血はどんどん吹き出し、満遍なくカッちゃんを覆い尽くしたのでした。

 

凧のように空に吸われ天女のように舞う

 やがて火は衰えました。すべての水分を出し尽くして体がカラカラになったお母さんは風に吹き起され、凧のように空に吸われて天女のように舞いながら、やがて見えなくなってしまいました。

お母さん、どこへ行くの?

 8月15日、終戦詔勅天皇のことば)が焼け跡の上を流れる少し前、カッちゃんの痩せおとろえた体も風に吹かれて空に舞い上がりました。お母さんが迎えに来てくれたのです。まるで二つの凧のようにお母さんとカッちゃんは真夏の太陽の輝く空いっぱいに、はばたき舞いおどりながら、どんどん高く昇っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 06-1955

なぜ約30年ごと? 次世代の新しい聖書

 

変わらない言葉を
変わりゆく世界に

31年ぶり、ゼロから翻訳した新しい聖書

 

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翻訳聖書も絶えず深化し発展

約30年ごとに出版される新しい翻訳「聖書 聖書協会共同訳」が2018年12月に発売された。聖書とは、神が人間一人一人へ語りかけている言葉。現代を生きるあなたにも日本語で語りかける。人々の言葉は、時代と共に変わり続ける。変わらない神の言葉を変わりゆく世界に伝えるため、翻訳聖書も絶えず変わり続ける。聖書を研究する学問は、神の言葉を現代に生きる私たちに、そして次世代へも正しく伝えるために絶えず深化し発展しているのだ。

 

「聖書協会共同訳」なぜ約30年ごとなのか

およそ1世代にあたる30年が経つと、聖書学、本文批評学、翻訳学が進展するだけでなく、言語が変化すると言われている。使い方や、その言葉への感じ方も変化する。また動植物、宝石、建造物などの名称は、聖書の動物学、植物学、考古学などの発展により、より正確になっているという。

 

人類史上最大のベストセラー

聖書は世界で20億人にも及ぶ人々が信奉する書物。いわば人類史上最大のベストセラーといってもいい。聖書は天地創造から世界の終末までがひとつの壮大な物語となって構成された書物だ。日本に住んでいると、それほど宗教を意識することはないが、海外とくに欧米理解には必須であり、文化だけでなく人の生き方まで影響する。30年ぶりの新翻訳版が発売されたこの機会に聖書に触れてみてはどうだろうか。手もとに置いておくだけでも意識が変わるかもしれない。

 

 

聖書 聖書協会共同訳 引照・注付き SIO43
 

 

 

 

*試されるイエスが発した言葉。人を裁く権利や資格をもつ者はいない

 

*「地球は青かった」が有名なのは日本だけ? 天に神はいたのか?

 

*「初めに言葉あり」「言葉は神と共に有り、言葉はなりき」

 

*「原罪」で人類は数々の労苦を背負うことに

 

*あらゆる知的生産は「問う」と「疑う」ことから始まる

 

*日本人信徒たちに加わえられた残忍な拷問と悲惨な殉教に苦悩

 

*人類誕生からの永遠の課題「罪と罰」。罪はブーメランのように

 

*ドイツ人住職から見た「日本人の寛容な宗教観」

 

 

 

 

 

 

 

 

03-1055