きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『檸檬』 梶井基次郎 無名のまま31歳で生涯を終える 


無名のまま31歳で生涯を終えたが

のちに「檸檬」が高評価を受け
その名が知られる



梶井基次郎(かじいもとじろう)

 明治34年(1901)、大阪に生まれる。京都大学卒業。この頃より結核、神経衰弱を発症し、以後病魔に苦しみつつも放蕩生活を続け、夏目漱石などに傾倒。23歳で東京大学文学部へ入学。。在学中の大正14年に同人誌『青空』を創刊、「檸檬(レモン)」を発表。初めて原稿料をもらったその年に結核が悪化し、昭和7年に無名のまま31歳で生涯を終えたましたが、死の前年に出版された単行本『檸檬』が高評価を受け、その名が知られることとなりました。

 

川端康成の手伝いをする

 大正15年(1926)、療養のために訪れた伊豆の湯ヶ島で、川端康成萩原朔太郎らと出会います。やがて基次郎は康成の『伊豆の踊子』の校正を手伝うことになるのですが、その見事な仕事ぶりを目にした康成は「彼は私の作品の字の間違いを校正したのではなく、作者の心の隙を校正したのであった」と驚いた。

 

檸檬

変にくすぐったい気持ちが街の上の私をほほえませた。
丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾をしかけてきた奇妙な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。

 得体のしれない憂鬱な心情や、ふと抱いたいたずらな感情を色彩豊かな事物や心象と共に誌的に描いた作品。三高時代の梶井が京都に下宿していた時の鬱屈した心理を背景に、一個のレモンと出会ったときの感動や、それを丸善(洋書店)の書棚の前に置き、鮮やかなレモンの爆弾を仕掛けたつもりで逃走するという空想が描かれています。
 この「檸檬」は、たった数ページの小品です。本書には他に「Kの昇天」や「冬の蠅」「のんきな患者」など、全14作品が収録されており、アメリカ、スペイン、中国、フランス、ドイツなどでも翻訳されています。

 

檸檬 (角川文庫)

檸檬 (角川文庫)