きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『命の一句』 世界でいちばん小さなメッセージ

 

最短詩型だからこそ
その中に無限の小宇宙がひろがる

 

命の一句―世界でいちばん小さなメッセージ

命の一句―世界でいちばん小さなメッセージ

 

 

 

天国はもう秋ですかお父さん
塚原 彩
交通事故で父を失った、三重県の小学生の句。日航財団が主催した「世界こどもハイクコンテスト」の秀作。芭蕉は「俳諧は三尺の童にさせよ」といった。失った父に「天国はいまごろ秋でしょうか、お父さん」と呼びかけています。

 

結婚は夢の続きやひな祭り
夏目雅子(女優)
伊集院静と結婚。翌年、闘病生活に入る。山口県防府の海の見える墓で、いま、ひまわりに囲まれて眠る。

 

咳をしても一人
尾崎放哉(俳人
定型の575音、季語にこだわらない、自由律の句。晩年の放哉は喉頭結核のため、激しい咳に悩まされた。咳をしても誰もいない。庵中にひびく咳を聞いているのは自分一人。孤独に徹した寂しさが、限りない深さであらわれている。

 

春浅しまだまだヨハンシュトラウス
岩城宏之(指揮者)
「まだまだ」は新年を祝うワルツ気分が春浅い季節まで続いている。最期の句と思うと、上五の「春浅し」が、とてもよく効いている。

 

幾時代かがありまして冬は疾風吹きました
中原中也(詩人)
中也の有名な詩、「サーカス」の詩句。
 幾時代ががありまして
   茶色い戦争がありました
 幾時代かがありまして
   冬は疾風吹きました

 

再びは生まれ来ぬ世か冬銀河
細見綾子(俳人
ただ「銀河」といえば、秋の季語。単に「冬」の「銀河」となると、空気もすんで、いっそう白々と寒い頭上に冴えるもの。私は、もうすぐ命絶えるが、きっと「再びは生まれ」ては「来ない世」であろうか。そうだ、「再び生まれ」て来ることはあるまい。

 

 

『命の一句』石 寒太 

 俳句は、究極のところ生と死を詠むことである。俳句をつくるようになって以来、ずっと考えつづけてきた結論である。
 この短い詩型でも、いろいろなことが盛りこめる。逆に、最短詩型だからこそ、その中に無限の小宇宙がひろがる。それがこの俳句の素晴らしい魅力でもある。
 俳句というこの十七音の一行詩は、いつどんなときにも勇気を与えてくれる。人生さえも変えてしまうのである。こんなに小さな詩型が人生をささえてしまうパワーをもっている。素晴らしい詩型である。これが命のうたである。