きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『日本再興戦略』 落合陽一

 

AI、AR・VR、5G、ロボット、自動運転、ブロックチェーンなどのテクノロジーがこれからの世界を大きく変えていく 

 

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

 

 

落合陽一(おちあいよういち)

1987年東京生まれ。日本の研究者、メディアアーティスト。筑波大学卒業。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学学長補佐、大阪芸術大学客員教授デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。名前の由来は、陽の+(プラス)と-(マイナス)から。父親は国際ジャーナリストの落合信彦。叔父は空手家の落合秀彦

 

戦況は好転する

 我々の世代の次の一手で、日本のこの長きにわたる停滞は終わり、戦況は好転する。僕はそう確信しています。バックグラウンドとビジョンを拡張し、世界に貢献する。日本にとって、そして世界にとって、今ここが「始まったばかり」なのです。
ー本文「はじめに」より
以下に一部を抜粋しました。

 

新たな価値創造システム

 今、「日本を何とかしないといけない」という思いを多くの人が持っているはずです。そのために何をすべきか、という解決策も見えてきます。でも、それだけでは日本は変わりません。日本を再興するため、世界を理解するために重要なのは「意識改革」です。集団に対する処方箋としての教育とテクノロジー、それを通貫するビジョンが必要なのです。
 各分野の専門家はいるのですが、教育と研究と経営とアートとものづくりをどれもやっている人はとてもレアです。これらの分野は一見、相性が悪そうですが、実は一人の人間がこれらのすべてに習熟すると、シナジーが生まれてきます。そしてそれらのすべてに影響を与えるのがテクノロジーです。AI、AR・VR、5G(第5世代移動通信システム)、ブロックチェーンなどのテクノロジーは、これから世界を大きく変えていきます。

 

東洋思想を学ぶべき

 欧州発で日本には向いていないものがあります。それは「近代的個人」です。個人の持つ意味を理解していないのに、西洋輸入の「個人」ばかりを目指すようになってしまった。我々は過度に分断されるようになった。そしていつのまにか日本人がバラバラになってしまったのです。それに対して東洋思想とは、一言で言うと、自然です。自然のエコシステムとの距離感を保ちながら暮らしていくという思想です。これからの日本人にとっては、西洋的人間性をどうやって超克して、更新しうるかがすごく重要です。
 我々は東洋人なのにもかかわらず、あまりに東洋のことを軽視しすぎです。バックグラウンドにある東洋思想を学ぶべきなのです。

 

長時間労働について

  西洋的思想と日本の相性の悪さは、仕事観にもあらわれています。ワークライフバランスという言葉が吹き荒れていますが、日本人は仕事と生活が一体化した「ワークアズライフ」のほうが向いています。歴史的にも、労働時間が長い国家です。オンとオフの区別をつける発想自体がこれからの時代には合いません。そこではストレスがないことが重要です。本人がストレスを感じていないのであれば、仕事をし続けるのも、旅行先でスマホをいじり続けるのも、別に問題はありません。

 

士農工商の復活

 カーストというと、悪いイメージがあるかもしれませんが、インド人にとっては必ずしも悪ではありません。多くの人が「カーストは幸福のひとつの形」といいます。カーストがあると職業選択の自由はない反面、ある意味の安定は得られるからです。
 インドのカーストに当たるのは日本の士農工商ですが、日本は本質的にカーストが向いている国だと思っています。大きく分類すると、士は政策決定者・産業創造者・官僚で、農は一般生産者・一般業務従事者で、工がアーティストや専門家で、商が金融商品や会計を扱うビジネスパーソンです。
 「農」の中心は百姓です。百姓とは、単なる農民ではありません。言葉のとおり、百姓とは生業が100個ある人たちです。いわば、自営業者、マルチクリエーターです。農業をする人もいれば、木工をする人もいる。文章を書く人もいれば、祭りを取り仕切る人もいる。一般的に、医術も百姓の生業のひとつであって、医者も農に属していました。要は、100ぐらいの職のバリエーションをポートフォリオマネジメントしてきたのです。

 

日本は5Gの最先進国

 未来に大きなインパクトをもたらすのが、次世代通信システムの5G(第5世代移動通信システム)でしょう。5Gになると、通信環境が劇的に変わります。現在の4Gに比べて、通信速度は100倍、容量は1000倍になると言われています。この5Gを日本は、世界に先んじて2020年から東京でスタートする予定です。日本は5Gの最先進国になるのです。とくに5Gで重要なのは、遅延がほとんどなくなることです。5Gになると、たった1ミリ秒の遅れで情報通信ができるようになります。1ミリ秒の遅れというのはとにかく速いです。人間の出入力感覚では、遅れを体感しないレベルです。5Gの持つ効果は「空間伝送」だけではありません。5Gによって「自動運転」や「遠隔手術」なども進化します。

 

人口減少は大きなチャンス

 人口減少と少子高齢化はこれからの日本にとって大チャンスなのです。理由はまず、高齢化で働ける人が減るので、仕事を機械化してもネガティブな圧力がかかりにくい。産業革命のときに労働者が機械を破壊したような運動が起こらないのです。今後の日本にとって、機械化はむしろ社会正義です。次に「輸出戦略」です。もし日本が人口減少と少子高齢化へのソリューションを生み出すことができれば、それは”最強の輸出戦略”になるのです。

 

シリコンバレーによる搾取の終焉

 我々がデジタル化社会で苦しんでいる最大の理由は、ソフトウェアのプラットフォームを取れなかったことです。今の我々の生活はシリコンバレー発のプラットフォームに支配されています。iPhoneを使ってアップルストアで買い物をしたり、グーグルマップで地図を検索したり、アマゾンのサイトで買い物をしたり、フェイスブックでメッセージを送り合ったりしていますが、その結果、多くの情報やお金がシリコンバレーに吸い取られているのです。日本は「景気がよくなったのになかなか賃金が上がらない」と騒いでいますが、その根本的な理由は、デジタル商品のほとんどがシリコンバレーのプラットフォーム経由で扱われているからです。
 こうした状況に終止符を打ち、ローカルな経済圏をつくるための武器となるのが、ブロックチェーン化であり、トークンエコノミー化(仮想通貨と同義語)です。シリコンバレーのプラットフォームを不要にする、日本発の日本で自己完結するプラットフォームをつくれるようになるのです。