きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

映画『万引き家族』 パルム・ドール作品

 

盗んだものは、絆でしたが ...
何が正しくて何が幸せかを判断するのは難しい

 

f:id:muchacafe:20180626211123j:plain

 

パルム・ドール

 親の死亡届を出さずに年金を不正に貰い続けていたある家族の実際にあった事件をもとに、是枝が家族や社会について構想10年近くをかけて考え、作り上げた。
 第71回カンヌ国際映画祭において、最高賞であるパルム・ドールを獲得した。日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督の「うなぎ」以来21年ぶり。

 

あらすじ

 東京の下町に暮らす、日雇い仕事の父・柴田治とクリーニング店で働く治の妻・信代、息子・祥太、風俗店で働く信代の妹・亜紀、そして家主である祖母・初枝の5人家族。家族の収入は初枝の年金と治と祥太が親子で手がける「万引き」。5人は社会の底辺で暮らしながらも笑顔が絶えなかった。
 冬のある日、近所の団地の廊下にひとりの幼い女の子が震えているのを見つけ、見かねた治が連れて帰る。体中に傷跡のある彼女「ゆり(のちに、りん)」の境遇を慮り、「ゆり」は柴田家の6人目の家族となった。
 しかし、柴田家にある事件が起こり、家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれの秘密と願いが次々に明らかになっていく。

 

母性と法律

 街角のスーパーで万引きをする父のリリーフランキーと息子の祥汰、祖母の樹木希林、妻の安藤サクラ、風俗で働く彼女の妹で松岡茉優の5人の家族。ある日、虐待を受けていた女の子りんを父が連れて帰り、母性という名の絆の物語が始まる。
 駄菓子屋で祥汰が、5歳のりんに万引きをさせるシーン。祥汰の万引き行為を知っており許していたおじいさん(柄本明)が、妹にだけはさせるなと注意する。ここは祥汰と妹りんへの母性を感じさせる。また風俗嬢の亜紀こと松岡茉優を、血のつながらない孫にも関わらず彼女を愛する樹木希林の母性。そして妻安藤サクラの、すれすれの状況で生きているリリーフランキーへの母性がある。特に印象に残るのは、安藤サクラがりんを育てるという母性だ。職場でりんの誘拐を知られてしまうと、バラしたらお前を殺すとまでいう。
 法律のなかで生活する市井の人々。この家族はすでに法律の外で生きている。その法律によって捕われ、解体され、取り調べで子どもを持てなかった母性が崩壊していく。 
 こまったもの同士が助け合い、血がつながっていなくても支えあう家族。人類が誕生し、法が生まれるまではこのような世界であったかもしれない。悪にも理由があるかのように。

 

俳優の個性を尊重

 是枝監督は、俳優の個性を優先させるために、ときに役者にセリフの一部を任せるらしい。だから場面によって役者のアドリブもあるとか。これが上手くいけば自然の流れが期待され良い結果につながるが、役者本人の想像力とセンスが必要になる。ややもすると、現実的で俗っぽいもので終わってしまう可能性もあるということ。
 ラストで妻の信代が捕まり、取り調べの若い女性警察官に確か「あなたが産んだ子じゃないから母親にはなれないのよ」と言われ、両手で涙を何度も拭うシーンがある。たぶんこの演技も役者に任せたのだろう。監督の思惑通り、印象に残るほどの何とも言えぬいい演技だった。ただ、このときの信代の返しのセリフが「そうね ... 」だった。なおさら、ここでは何かヒカる「ひとこと」があるとよかった。

 

 

f:id:muchacafe:20180626212331j:plain
(祖母の初枝を演ずる樹木希林と妻信代の安藤サクラ