きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『科学革命の構造』 パラダイム

 

コペルニクスの時代を丹念に研究

 20世紀を代表するアメリカの科学史家、トーマス・クーンはコペルニクスの時代を丹念に研究した結果、驚くべき結論にたどり着きました。コペルニクスの地動説は、彼の死後1世紀あまり、ほとんど賛同者を得られなかった。ニュートンの仕事も、主著「プリンキピア」が出てから半世紀以上、一般の支持を得られなかった。ダーウィンの進化論だって、すぐに受け入れられたわけではない。それでは、こうした世界をひっくり返すような新説は、いつ、どのタイミングで、どのようにして受け入れられていくのか?

彼の結論は「世代交代」

 つまり、天動説を信じる古い世代の大人たちは、どれだけ確かな新事実を突きつけても、一生変わらない。なにがあっても自説を曲げようとしない。地動説が世の中の「常識」になるのは、古い世代の大人たちが年老いてこの世を去り、新しい世代が時代の中心に立った時なのだ。この「世代交代」だけが、世の中を変えるのだ。そんなふうに言うわけです。

 

たとえば学校の部活で考えてみると

 これは学校の部活で考えるとわかりやすいかもしれません。たとえば、野球部やテニス部に「1年生は球拾いをする」という常識があったとします。1年生のみなさんは、球拾いがどれほど無駄な行為か、その時間に普通の練習をさせてくれれば、どれだけ成長するか、ありとあらゆる事例を挙げながら訴えます。
 でも、3年生は聞く耳をもたないでしょう。2年生だって「おれたちも去年まで球拾いばかりやっていたんだ。お前たちもがんばれ」と聞き流す可能性が高い。結局、3年生が引退し、2年生も引退して、みなさんが主役(最上級生)になった時にようやく「1年生の球拾い禁止」が「常識」になります。世の中が完全に変わるには、いつだって世代交代が必要なのです。トーマス・クーンは、これをパラダイムという言葉で説明しました。

パラダイムシフト

 パラダイムとは簡単に言うと「ある時代に共有された常識」といった意味の言葉です。文明とは、ゆるやかなカーブを描くように少しずつ発展していくものではない。それまでの常識(パラダイムA)が、新しい常識(パラダイムB)に打倒されたとき、時代は次のステージに突入する。さらにパラダイムBが、もっと新しいパラダイムCに打倒されたとき、時代はもう一段上のステージに突入する。
 そして古いパラダイムが、新しいパラダイムに移り変わる(パラダイムシフト)ためには「世代交代」が必要である。古い世代の人たちに世界を変える力はない。世界を変えるのは、いつも「新人」なのだ。


トーマス・クーンの結論

 トーマス・クーンは「科学革命の構造」という著書の中で、次のように結論づけています。「このような新しいパラダイムの基本的発明を遂げた人は、ほとんど非常に若いか、パラダイムの変更を促す分野に新しく入ってきた新人かのどちらかである」。また「明らかに彼らは、通常科学の伝統的ルールに縛られることがなく、これらのルールはもはや役に立たないから外のものを考えよう、ということになりやすい」と。

 

常識に縛られない

 「新人」には、古い世代の大人には、見えないものが見えています。
このルールって、おかしくない?
なんでみんなでわざわざこんなことしてるの?
もっと簡単にできるんじゃない?
過去の常識に縛られない「新人」だからこそ感じる違和感が、たくさんあるはずです。

 

(「ミライの授業」より引用)

科学革命の構造

科学革命の構造