「主要な文学思潮」 これで近代文学の傾向がわかる 

 

今、日本人が
読むべき近代文学
その思想を解説する

 

近代文学とは

 日本文学においての近代文学とは諸説ありますが、明治維新以降、文明開化から1945年(昭和20年)の終戦までに生れた文学作品とあります。明治から昭和までの主要な文学思潮を頭に入れておくことで、近代文学の大まかな傾向が理解できそうです。

 

明治時代の文学思潮 

★ 黎明期「戯作文学(げさくぶんがく)
江戸時代後期の戯作(洒落本・滑稽本黄表紙など)を受け継ぎ、世相や風俗を風刺。
代表的な作品:仮名垣魯文西洋道中膝栗毛』『安愚楽鍋』など

★ 黎明期「翻訳文学」
西洋文学の翻訳。西洋の事情や風俗・習慣などを伝えた。
代表的な作品:中村正直訳『西国立志編』、川島忠之助訳『八十日間世界一周』など

★ 黎明期「政治小説
自由民権運動ナショナリズムの精神など、政治思想を普及させた。
代表的な作品:矢野龍渓経国美談』、東海散士佳人之奇遇』など

★「写実主義
空想によらず現実をありのままに写し、文学を教訓や政治などの手段ではなく、それ自体を目的とした。
代表的な作品:坪内逍遥小説神髄』『当世書生気質』、二葉亭四迷浮雲』など

★ 擬古典主義「現友社」
文芸雑誌『我楽多文庫』を創刊した文学結社「現友社」のグループ。井原西鶴近松門左衛門など古典文学に懐古し、伝統を守ろうとした。
代表的な作品:尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』『金色夜叉』、山田美妙『夏木立』など

★ 擬古典主義「理想主義」
写実主義的な現友社に対し、理想的で壮大な古典世界を描いた。
代表的な作品:幸田露伴五重塔』、樋口一葉たけくらべ』など

★「浪漫主義」
西洋思想の影響を受け、封建的な社会から解放された自由な個人の精神や近代的な自我の目覚めを主張した。森鴎外の初期作品に代表され、それを文芸雑誌『文学界』を創刊したグループが受け継いだ。
代表的な作品:森鴎外舞姫』『うたかたの記』、北村透谷『内部生命論』、泉鏡花『外科室』『高野聖』、徳冨蘆花『不如帰』、国木田独歩『武蔵野』など

★「自然主義
西洋で興った自然主義の影響を受け、人間のあるがままの姿を客観的に描いた。日本では自らの苦悩を客観的に描写する自伝的作風・私小説の形に傾斜していった。
代表的な作品:島崎藤村『破壊』『春』、田山花袋『蒲団』『田舎教師』、正宗白鳥『何処へ』、徳田秋声『黴』など

反自然主義「余裕派」「高踏派(こうとうは)
自然主義に対し、広い視野と余裕をもって対象をとらえ、理知的な独自の文学世界を築いた。夏目漱石を中心としたグループが「余裕派」、森鴎外らが「高踏派」。
代表的な作品:夏目漱石草枕』『三四郎』『こころ』、高浜虚子『風流懺法』、森鴎外『雁』『阿部一族』『高瀬舟』、堀口大學『月光とピエロ』など

 

大正時代の文学思潮

反自然主義耽美派(たんびは)
自然主義が人間の醜い現実を描くのに対し、美を至高とし、それを描くことを唯一の目的とした。「悪魔主義」と呼ばれることもある。
代表的な作品:谷崎潤一郎『刺青』、永井荷風『すみだ川』など

反自然主義白樺派
同人誌『白樺』を中心に活動したグループ。トルストイの影響を受け、人間肯定を志向。理想主義・人道主義個人主義的な作風で知られる。
代表的な作品:志賀直哉『城の崎にて』『暗夜行路』『和解』、武者小路実篤『お目出たき人』『友情』、有島武郎生れ出づる悩み』『或る女』など

新現実主義「新思想派」
文芸雑誌『新思潮』を中心に活動したグループ。白樺派の自己の肯定や観念的理想に満足せず、現実の姿を理知的に描写した。
代表的な作品:芥川龍之介羅生門』『鼻』『河童』、菊池寛父帰る』『恩讐の彼方に

新現実派主義「奇蹟派」
早稲田大学の同人誌『奇蹟』を中心に活動した、現実を直視する作風のグループ。
代表的な作品:広津和郎『神経病時代』、宇野浩二『蔵の中』など

プロレタリア文学
労働者の生活や思想がテーマ。マルクス主義の立場で、資本主義の打倒や労働者階級の解放を目的として、現実をリアリズムの手法で描いた。革命運動を推進したとして、政府から弾圧された。
代表的な作品:小林多喜二蟹工船』、葉山嘉樹『海に生くる人々』『セメント樽の中の手紙』、徳永直『太陽のない街』など

 

昭和時代の文学思潮

★ 芸術派「新感覚派
機械化された近代社会の人間の現実社会など、新しい現実を作者の鋭い感覚でとらえるとともに、新しい表現技術の工夫を特徴とした。
代表的な作品:横光利一『日輪』『蠅』、川端康成伊豆の踊子』『雪国』など

★ 芸術派「新興芸術派」
プロレタリア文学に対抗し、芸術の自律性を主張したが、やがて商業主義・享楽主義的傾向に変わっていった。
代表的な作品:井伏鱒二山椒魚』『黒い雨』、梶井基次郎檸檬』『冬の蠅』など

★ 芸術派「新心理主義
欧米で興った心理的現実主義の影響を受け、意識の流れや独白によって、人間の内面世界の描写をテーマとした。
代表的な作品:堀辰雄『聖家族』『風立ちぬ』『菜穂子』、伊藤整『幽鬼の街』など

★ 戦時下の文学「転向文学」
弾圧によってマルクス主義を放棄したプロレタリア作家が、その過程を題材に作品を執筆した。
代表的な作品:中野重治『村の家』、島木健作『生活の探求』、高見順『故旧忘れ得べき』など

★ 戦時下の文学「日本浪漫派」
日本の伝統文化への回帰を標榜した。
代表的な作品:保田與重郎『日本の橋』など

★ 戦後文学「新戯作派」(無頼派
既成のモラルへの反逆、現実への絶望などを、自虐的な筆致で描いた。
代表的な作品:太宰治『斜陽』『人間失格』、坂口安吾堕落論』『桜の森の満開の下』など

★ 戦後文学「民主主義文学」
壊滅したプロレタリア文学を、平和と民主主義を標榜する文学として再生することを目指した。
代表的な作品:宮本百合子播州平野』、徳永直『妻よねむれ』、佐多稲子『私の東京地図』など

★ 戦後文学「戦後派」(第一次)
戦争を体験した世代の作家たちが、敗戦後の社会の混乱と退廃を投影した作品を発表。従来の価値基準を放棄して新しい時代の文学の旗手となった。
代表的な作品:野間宏『暗い絵』、中村慎一郎『死の影の下に』、梅崎春生桜島』など

★ 戦後文学「戦後派」(第二次)
戦争を体験した世代の作家たちが、敗戦後の社会の混乱と退廃を投影した作品を発表。従来の価値基準を放棄して新しい時代の文学の旗手となった。
代表的な作品:三島由紀夫金閣寺』『潮騒』、大岡昇平『俘虜記』『野火』、安倍公房『砂の女』、堀田善衛『広場の孤独』、島尾敏雄『死の棘』など

第三の新人
戦後派の後を受けて登場。社会や政治への関心は薄く、もっぱら日常の人間性を描いた。
代表的な作品:遠藤周作『沈黙』、安岡章太郎『悪い仲間』、吉行淳之介『驟雨』など。

★ 昭和30年代の文学
第三の新人とは対照的に、社会や政治に対して自己主張を示した。女流作家も活発に活動。
代表的な作品:大江健三郎『死者の奢り』『万延元年のフットボール』、開高健『裸の王様』、有吉佐和子『紀ノ川』など

内向の世代
個人の内面に焦点を当て、個人の存在やあり方を内省的に模索した。
代表的な作品:古井由吉『杳子』、黒井千次『時間』、小川国夫『アポロンの島』

 

 

マンガでわかる日本文学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる日本文学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)