きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

孫子の兵法 「戦わずして勝つ」

 

内に向かえば身を修めることができ
外は事変に対応できる

戦いの哲学は軍事を超えて人生哲学として

 

 

史書史記』を記した司馬遷孫子呉子の兵法を評して、「内に向かえば身を修めることができ、外は事変に対応できる」と言う。
確かに兵法は自他に打ち勝ち、自他を治めることを教えるものである。

 

 

新訂 孫子 (岩波文庫)

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孫子の兵法 (図解雑学)

孫子の兵法 (図解雑学)

 

 

 

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軍事の書は人生哲学の意味を持つ

孫子(そんし)』十三編は、中国春秋時代に呉(ご)の将軍の任にあった孫武(そんぶ)の著作と伝えられる。この書は戦国時代の末には『呉子(ごし)』とともに代表的な兵書(軍事論の書)としての地位を獲得し、武人の必読書となって二千年の歳月が流れている。また中国のみならず、広く日本、さらには西欧にまで伝えられてその戦争史に大きな影響を与えてきた。しかも、軍事を超えて人生哲学としての意味を持ち、不朽の古典として今日なおその光芒(こうぼう)を放っている。

 

 

 

戦わずして勝つ

 人類の歴史は戦争の歴史である。絶え間ない春秋戦乱の世にあって、同時代の思想家には反乱、非戦に通ずる主張をする者もいた。しかし、孫子は戦争のなくならない現実をしかと見すえ、戦争の惨禍(さんか)を極力少なく抑える道を模索した。それは武力に頼って敵を殲滅(せんめつ)するのではなく、勝つことより負けないことを主眼に置き、武力以外の要素も使って敵を屈服させることであった。これがいわゆる「戦わずして勝つ」という孫子兵法の要諦(ようてい)に他ならない。

 

戦わずして勝つの意味

 最善の勝利は戦闘にはない。孫子兵法の要諦は「戦わずして勝つ」と言い習わされてきたが、これは戦闘を避け、政治や外交等によって敵軍に打ち勝つ方法を指している。このことばは『太平記』の楠木正成の緒言に「良将は戦わずして勝つと申し候えば... 」というのを見ることができる。出典はこれよりさかのぼる可能性はあるが、ともかくこのような軍事物語が語り継がれていく中で日本人に定着していった表現であろう。

 

戦闘を回避する戦い

 孫子の真意は、戦闘によれば人命と国費の損傷を招くため、政治や外交の力により、あるいは陰謀や工作により敵国や敵軍を屈服させよということである。決して非戦論でも無抵抗主義でもない。また非武装論とも無縁で、確固たる軍備は自明のことである。政治・外交が効力を発揮するのもこの軍備あればこそと考えている。
 戦闘に至る場合も十分想定しており、『孫子』は戦力の運用法について仔細に解説するが、この場合にも消耗は最小限に止めようとする「戦わずして勝つ」という精神を忘れることはない。

 

実践よりすぐれた方法

 政治・外交・秘密工作等すべて戦争である。戦争はある目的を達成するための手段であり、その目的が達成されるなら他にも安全な方法が考えられる。
 一般に戦争とは武力の行使によってその目的を達成するものとの認識がある。しかし、孫子はその方法を決してすぐれた戦争のあり方とはしなかった。それはおびただしい人命の犠牲と莫大な国費の消耗がともなうからである。その目的達成に限れば、戦闘よりはるかに安全で有効な方法があり、それも戦争であるとしているのである。

 

実践以外の方法と孫子の発想

 孫子は戦争と交戦を短絡的に結びつけることはなかった。最上の戦争は敵国の策謀をいち早く察知し、その策謀を実行不能にすることだとした。これができれば自軍を損傷させることなく、実践に臨んで勝利したのと同じ結果が得られるのである。次善の策は敵国の同盟関係を解体させることだとした。
 敵国の策謀が同盟国との連携を前提にしていたとすれば、これも敵国の策謀を実行不能に追い込む有効な方法であり、国益にも十分繋がるものであろう。
 この両者についてはいずれも具体策を明示していないが、表では政治・外交の力を用い、裏では工作活動を盛んに行う等が推測される。とすれば孫子は政治・外交も工作活動もすべて戦争という枠から見ていることに気づく。これこそ戦争に責任を負う将軍の目に他ならない。

 

秘密工作と外交

①戦闘や城攻めのみに頼る戦争は下策で、まず敵の策謀を防ぐこと、次に敵を孤立させることを考えるのが上策の戦争と言える。
②間者などにより事前に敵の策謀を察知し、これを実行不能にする。
③戦国の同盟国に働きかけて、これを離反させて敵国を孤立させる

 

 

*戦いの基本は手の内を見せないこと

*敵の意表を突くこと

*彼我の戦力を正確に把握せよ

*勝負は戦前に決定する

*戦争は速くやれ

*敵地で食料を確保せよ

*長期戦は回避せよ

*最善の勝利は戦闘にはない

*政治・外交・秘密工作等すべて戦争である

*君主は口出しするな

*勝てる敵と戦え

*奇法で勝つ

*奇法を連続させよ

*敵を上手に誘導して待ち伏せをせよ

*敵を利害で制御せよ

*自然に自在に変化して敵の嘘をつけ

*戦場に先着せよ

*敵が怠情となるときに仕掛けよ

*戦いは兵力の多寡ではない

*軍令は平素からの信頼が必要

*地形を熟知せよ

*兵士を愛育せよ

*敵が大事にしているものを奪え

*一時の感情によって戦争をしてはならぬ

*軍事の要は秀逸な間者

など

 

 

 ※『孫子の兵法(図解雑学)』より

 

 

 

 

 

07-2278