きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない

 

パスポートを持っている
アメリカ人は国民の2割にすぎない
他の8割は外国に関心がない

 

アメリカの地図を見て
ニューヨーク州の場所を
示せない者が5割もいたのだ

 

 

 

アメリカのTV番組のインタビュー

たとえば、北京オリンピックの最中にはこんな感じ

「今、オリンピックをやってる国はどこですか?」
アメリカ?  じゃないのね ...  」

「ヒント。アジアです」
「タイかしら?」

「 ... オリンピック発祥の地は?」
アメリカ?」

答えているのは小学生とかチンピラじゃない。

「ところで職業は?」
「大学生。教育学部よ。先生になるの!」

 

ヤラセでも仕込みでもない番組

「今まで世界大戦は何回あった?」
「3回?」

ヒロシマナガサキといえば?」
「ジュードー?」

ベトナム戦争アメリカは勝った? 負けた?」
「え! もちろん私たちの勝ちでしょ! ... ベトナム戦争ってアメリカがしたんだっけ?」

第2次大戦を経験している老人の答えだ。この手の番組は「ヤラセ」や「仕込み」じゃないの?と疑ってしまうが、これが現実だ。

 

将来を担う若者たちの現実

 パスポートを持っているアメリカ人は国民の2割にすぎない。他の8割は外国に関心がない。彼らが外国の土を踏むのは、銃を持って攻め込む時だけだ。さらにナショナル・ジオグラフィックの調査では、アメリカの地図を見てニューヨーク州の場所を示せない者が5割もいたのだ。これが世界一の覇権国家の将来を担う若者たちの現実である。

 

自分の生活のこともわかっていない

 戦争や外交だけじゃない。自分たちの生活すらよくわかっていない。日本では国民年金が大問題になったが、アメリカにもソーシャル・セキュリティ(社会保障)という国が運営する年金制度がある。しかし、ベビーブーマーの老齢化と、ブッシュ政権財政赤字のために破綻した。そこでブッシュは年金を民営化し、株式投資で運営させる「自己責任システム」にしようとしたが、大統領選ではまるで争点にもならなかった。なぜならば、国民の半分は年金危機自体を全然知らなかったからだ。

 

時事ニュースを知らない

 新聞やテレビのニュースは見ないのか?  見ないのだ。デヴィット・ミンディック著『無関心/なぜ40歳以下のアメリカ人は時事ニュースを知らないか』によると、18歳から34歳のアメリカ人で新聞を読むのは3割に満たない。高齢者だとこの数は増えるが、『NYタイムズ』や『ワシントンポスト』などの全国紙を読む割合は半分以下だ。アメリカ人は基本的に、地元のことしか書いていないローカル紙しか読まない。

 

 

 

アメリカ人は単に無知なのではない
その根には「無知こそ善」とする
思想、反知性主義があるのだ

 

 

無知こそ善という思想

 同じく18歳から34歳でネットで時事ニュースをチェックする人もたった11パーセントにすぎない。「アメリカの知識人階級と大衆のあいだに巨大で不健全な断絶があることが明白になった」そう書いたのは『タイム』誌だが、最近ではなく1952年の記事である。こんな状況は今始まったことではなかった。
 アメリカ人は単に無知なのではない。その根には「無知こそ善」とする思想、反知性主義があるのだ。

 

キリスト教福音主義とは

 1963年の名著アメリカの反知性主義で、歴史学者リチャード・ホフスタッターは、アメリカ人の知識に対する反感の原因のひとつにキリスト教福音主義を挙げている。福音主義とは、福音、つまり聖書を一字一句信じようとする生き方で(特に過激なのは聖書原理主義と呼ばれる)、自らを福音派とするアメリカ人は全人口の25~30%を占めている。彼らにとって余計な知識は聖書への疑いを増すだけであり、より無知なものほど聖書に純粋に身を捧げることができる。

 

福音派が知性を否定

 中世ヨーロッパでは、聖書以外の書物に価値はなかったが、ルネッサンス以降、書物によって知識と論理的な思考が普及し、近代科学が生まれた。しかしその結果としてキリスト教信仰は弱体化した。しかし、アメリカでは福音派が何度となく巨大な信仰回帰運動を起し、知性を否定してきた。たとえば、福音派の伝道師ドワイト・L・ムーディー牧師は「聖書以外の本は読まない」ことを誇りとした。

 

無知が強力な票田になる

 「アメリカの成人の2割は、太陽が地球の周りを回っていると信じている」という調査('05年ノースウエスト大学ジョン・D・ミラー博士)があるが、無理もないのだ。
 ただ、福音派は元来、俗事にすぎない政治には関心が薄かった。それが強力な票田になることに気づいたのは共和党だった。
 アメリカの大統領選挙は、各州ごとに決められた「選挙人」というポイントを、その州で過半数を取った候補が全取りするルールだ。この集計公式だと、都市のある東海岸や西海岸の州よりも、人口の少ない南部や中西部や西部の州のほうが一票の重さは重くなる。福音派は田舎に集中して住んでいるので選挙への影響力は大きい。教会やテレビ伝道で信者をごっそり投票に動員することもできる。

トランプ大統領福音派から圧倒的多数の支持を集めたことが勝利を決定づける要因のひとつになりました。国民の4人に1人を占める福音派からの支持なしには選挙に勝てない現実があるのですね。保守的なキリスト教徒を支持基盤とする共和党の大統領はもちろん、リベラルな民主党の大統領も、とりわけ保守的な南部の各州で党内の予備選挙を勝ち抜かなければなりませんから事情は同じです。しかし、いまの福音派に限らずアメリカのキリスト教団体は深刻な懸念を抱えています。それは若者たちの宗教離れです。

 

世界を巻き込むアメリカの無知

 その他、アメリカ人の時事問題への無知の原因には右派メディアの暴走や、教育の崩壊などいろいろな理由があるが、とにかくニュースを知らない人たち、外国に興味のない人たちによって大統領が決定され、その大統領が無茶な戦争を起こし、デタラメな政策で経済メルトダウンを起こして日本や世界を巻き込んでいるわけで、この不条理には、もはや笑うしかない。

 

原爆投下を知っているのは49%

 アメリカでは、そんな笑うしかない現実が宗教、政治、経済、メディア、あらゆる場所にあふれています。この本は2006年から2008年夏までの2年間に、筆者がアメリカで生活しながら見聞きしたバカげたニュースを集めたものです。笑って読んで欲しいけど、ムカッときたらごめんなさい。ちなみにリック・シュンクマン著『アメリカ人は嘆く われわれはどこまでバカか?』(08年)によると、自分たちの国が日本に原爆を投下した事実を知っているアメリカ人は49%にすぎないそうです。
 

 

 

*本記事は本書の序章を書き写したものです

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (文春文庫)

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (文春文庫)

 

 *参考書籍

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

 

 

 

 

 

 

 

 

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