きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

『友情』 武者小路実篤 不朽の大失恋小説

 

友情と恋愛を同時に失った男が
失意の底から這い上がろうとする

 

友情 (新潮文庫)

友情 (新潮文庫)

 

 

あらすじ

 23歳にしてまだ女を知らない野島は、女を見るとすぐに結婚を連想してしまう。美しい杉子に出会って以来、片想いの熱にうかされる妄想の日々。親友の大宮に抱え切れない熱い想いを打ち明けるが、事態は思わぬ方向に進み始め ... 
 全身全霊で恋焦がれても、親友が応援してくれても相手の気持ちだけはいかんともしがたいのが恋という難物。不朽の大失恋小説。

 

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武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)
1885年(明治18年)東京麹町にて、江戸時代から続く公卿の家系の第8子として武者小路家に生まれる。子供時代は作文が苦手だったという。東京大学社会学科中退。トルストイの唱える「隣人愛」と「自己犠牲の精神」に傾倒したのち、志賀直哉有島武郎らと文芸誌「白樺」を創刊。その後は人道主義に改心し、「人間らしい暮らし」を目指す共同体「新しき村」を創設した。1976年(昭和51年)に尿毒症で死去。享年90歳。

 

登場人物

野島 主人公であり、23歳の脚本家。仲田の妹・杉子に恋している。親友の大宮に深い友情を感じている。

大宮 野島の友人であり、一番の親友。26歳の脚本家で、世間に認められている。密かに杉子に心を寄せるが、野島との友情を思い、葛藤する。

杉子 仲田の妹であり、学校に通う16歳。野島を生理的に嫌っており、大宮に思いを寄せる。

仲田 杉子の兄であり、法科生。野島の友達で、無遠慮にものが言える相手。社会情勢のことや恋愛観について野島と話すが、恋愛観においては意見が異なる。まだ若い妹の結婚に反対しており、妹への結婚の申し込みに辟易(へきえき)している。

村岡 早川の親友。帝劇で公演されるような脚本を書ける力をもつ脚本家。27~28歳。大宮の作品に感心する。

一高の生徒 仲田の家で開催されたピンポン大会で、ずばぬけた才能をみせる。村岡を崇拝している。

早川 仲田の友人であり、運動家。野島とは、仲田の家で数回会っている。野島と「神があるなしの議論」で激論を交わす。

武子 大宮の従妹。大宮を崇拝し、兄と呼ぶ。杉子と友人である。感情家で思ったことはなんでも言う、我儘(わがまま)で勝気な性格。下篇において杉子に大宮の居場所を教える。

 

代表的な青春の文学

 タイトルから、さわやかな青春ものの小説と思ってしまうが、結構しつこい印象のするストーリー。まあ、たぶん最後には大宮がおいしいところをさらっていくのだろうと推測がつく。友情に愛情ごとが入り混じってしまうと、友情なんてきれいごとは消えてしまう。しかし、タイトルを『友情』にしたところに青春の根源が感じられ、健全な恋愛の文学として捉えることができる。
 文体は簡潔で分かりやすく、全体として清楚で明るい。このあたりが武者小路実篤の作風であろう。対話がベースなので物語を面白くし、起伏を与えている。