『新・地政学』 リーダー論

 

対立の軸にあるもの

 「冷戦」や「第二次冷戦」という言葉を使うことによって、時代の流れがより理解しやすくなるかもしれません。対立の軸にあるのは、ひとことで言えば「価値観」だと思います。「歴史の終わり」、すなわち民主主義と自由経済こそが歴史の最終形態であるという「普遍的価値」を共有する陣営と、それを拒否する陣営による「冷たい戦争」、後者が新世界秩序を標榜しつつ、前者にチャレンジを挑む、という構図です。

 

変革期のリーダー論

 歴史を見ても、リーダーの資質が最も問われるのは当然ながら危機や有事の際です。その最たるものが政治では戦争や革命です。一方、強いリーダーは平時には求められません。とくに日本のような安定した時代には、社会の資源を不満がないように分配するバランス感覚です。
 有事という状況が優れたリーダーを生むともいえる。イスラーム史でいえば、七世紀の預言者ムハンマドがそうです。アラビア半島では慢性的に戦争が行われていました。ムハンマドが安定した平和を生み出すためにつくった宗教共同体は、同時に軍事と政治の共同体だったのです。冷戦終結時、西ドイツのコール首相は、ソ連ゴルバチョフと渡り合ってドイツ再統一を果たしました。彼が示した大局観は歴史観や哲学認識に支えられれていました。
 第二次世界大戦でイギリスや連合国を勝利に導いたウインストン・チャーチルは、歴史観や国家観が明晰で、ものを考える座標軸に揺るぎがない。歴史や文学の教養があったからだと思うのです。自らの著書「第二次世界大戦回顧録」でノーベル文学賞を受賞しています。
 リーダーに必要な資質とは、自分の仕事に直接関係ないものに触れないというのではなく、リーダーとして成長するのに役立つのであれば、何であれ手にするという姿勢です。知見を広げ、感覚を磨く機会は、なにも読書に限りません。賢い人に会って刺激を受けるのでもいいのです。

 

 本書では、テロ、IS、難民、米露、イラン、日中韓関係 ... 混迷をきわめる世界情勢について、「歴史学の泰斗」と「インテリジェンスの第一人者」が潮流を読み解くための「羅針盤」を示す。豊かな世界史の教養と、外交現場を知り尽くしたリアリティにもとづき、日本の針路と、真のリーダー像を問う一冊です。