等身大の大江健三郎
等身大の大江健三郎が垣間見れる
106 の質問に立ち向かう
本書『大江健三郎 作家自身を語る』の巻末に大江健三郎への 106 の質問が挙げられている。たとえば、一日の過ごし方や、お酒は飲まれるのか、面白い本の探し方、安倍公房との不仲について、1億円あったら何に使うか、語学の勉強法について、村上春樹について、など興味深い質問が続く。ここでは等身大の大江健三郎の姿が垣間見れる。
(下記はその抜粋)
面白い本は、どうやってお探しですか。
たいてい3年単位でひとつの主題を続けます。渡辺一夫さんに教わって、40年以上続けています。その積み重ねで面白い本が浮かび上がってきます。その定まった主題より他では、外国の新聞の書評をよく読み、信頼する同世代の研究者の友人に教わります。ところが、運命のようにポカンと、なにより大切な本が手に入ることがあるのです。
日本の古典文学で一番影響を受けた作品は?
私はまったくの素人ですが、長篇小説では『源氏物語』、中篇小説(フランス語ならレシですね)なら、西鶴の『好色五人女』、そして短篇小説なら、― そうかな? と思われるでしょうが、『枕草子』です。私はずっと前に出た『新潮日本古典集成』をベッドのなかや電車で愛読しました。
もし戻れるなら、何歳に?
22歳に。小説を書き始めないで語学力をしっかりつけて、渡辺一夫さんのもとで専門勉強をします。その後でなら、いつだって小説を書き始められたでしょうから。
安部公房さんと一時期、絶交されたというのは本当ですか。
大学闘争の時期、安部さんから電話があって、朝日新聞で学生たちを批判する対談を準備した、ともちかけられました。私がそれはしない、と答えると、― それじゃ、きみと友人でいても仕方ないな、といわれ、― クソッタレ! と私が応じて絶交しました。それから、本気で仲直りすることがあった、とは思いません。あの人は友人にしてもらうより、天才としてその作品を読んでいることで幸いでした。
大学の文学部は何を学ぶところでしょう。
外国語と、この国の古典の言葉を読む力をつけるところです。
語学の勉強で大切なことは?
辞書をていねいに引くこと。本当に自分に大切に思える文章(詩でも)は、カードにうつして覚えてしまうこと。赤線を引いた本を、時をへだてては何度も読みかえすこと。わかりにくい文章(詩でも)は、自分の日本語に訳してみること。2つの外国語でひとつの作品を読み合わせる習慣を作ること。
蔵書の整理などはよくなさいますか。
毎日している、と家内はいっています。理想的には、さらにいまの10分の1にしたい。そしておしまいの日々、それらすべてを苦労せず見あげられる場所にベッドを置きたいとねがいます。
新聞やテレビの日本語で、これはやめて欲しい、という言葉やいい方はありますか。
やめて欲しい、の、欲しいというのは関西のいい方だとなにかで読み、私はして欲しい、やめて欲しいといったことがありません。それでも「美しい国」「凛とした」「鳥肌が立つ」「 ~ 力」などがイヤです。
今、一番の願いごとは?
東アジアの非核化。あいつ(複数)の消滅。
無人島に一冊だけ本を持って行けるとしたら、何を選ばれますか。
その時点で最大の(手に持てる範囲で)太陽電池式の電子辞書。
生まれ変わっても小説家に?
生まれ変わらぬことをねがっています。しかし、もし生まれ変わったら、私にはもう小説に書くことはないでしょう。この生涯において、才能とかそのスケール、高さなどはいわぬとして、とにかく私は小説家として怠けず働いたと、生まれ変わりをつかさどる役の存在がいたら、申したてるつもりです。