きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

小林秀雄 『学生との対話』

 

全国の大学から集まった学生達との
胸を打つ対話の記録です

 

学生との対話 (新潮文庫)

学生との対話 (新潮文庫)

 

 

 小林秀雄(こばやしひでお)

1902 -1983  東京生まれ。東京帝国大学文学部仏文科卒。文芸批評家、編集者、作家。文化勲章受章。代表作に『ドストエフスキーの生活』『無常という事』『モオツァルト』『ゴッホの手紙』『考えるヒント』『本居宣長』など。腎不全により死去。80歳没。
影響を受けたもの、フョードル・ドストエフスキー、アンリ・ベルクソン、アラン、泉鏡花幸田露伴志賀直哉など。

 

批評とは他人をほめる技術だ

 小林秀雄は批評家であり、上記の代表作にあるような文章を書き、日本における近代批評の創始者、確立者として大きな足跡を残した。
 批評と聞くと、大抵の人は批難、批評、誹謗といった言葉と同じ意味合いで受け取りがちだが、小林秀雄の言う「批評」は違っていた。永年、批評文を書いてきて、小林秀雄が到達した境地は、「批評とは他人をほめる技術である」だった。―  自分の仕事の具体例を顧みると、批評文としてよく書かれているものは、皆他人への賛辞であって、他人への悪口で文を成したものではない事に、はっきりと気付く。そこから率直に発言してみると、批評とは人をほめる特殊の技術だ、と言えそうだ。人をけなすのは批評家の持つ一技術ですらなく、批評精神に全く反する精神的態度である、と言えそうだ ...と語っている。

 

質問することの意味

 人と人との対話の意味と併せて、本書のもうひとつの大きな目的は、「質問することの意味」だ。講義や講演での質疑応答では「うまく質問して下さい」と条件をつけ、「そんな質問には答えない」とはねつけたりもしている。実はこれも、先に紹介した「批評とは他人をほめる技術である」と根本は同じなのだ。小林秀雄は、若者たちに、「批評とは上手に質問する技術である」と言ってもよかったはずなのである。

 

答えばかり求めていないか

 しかし、質問するということは、決してやさしいことではない。―  質問するというのは難しいことです。本当にうまく質問することができたら、もう答えは要らないのです。ベルクソンもそう言っています。僕ら人間の分際で、この難しい人生に向かって、答えを出すこと、解決を与えることはおそらくできない。ただ、正しく訊くことはできる。いま文化の問題でも、何の問題でもいいが、物を考えている人がうまく問題を出そうとしませんね。答えばかり出そうとあせっている。

 

質問が切実であること

 誰のものでもない自分の人生を、溌剌(はつらつ)と独創的に生きていくために必要なことは、答えを手にすることではない、問いを発明することだ、自分自身で人生に上手に質問することだ、小林秀雄はそう言う。そして、上手に質問するにはどうすればよいか、小林秀雄は具体的に教えている。ひとことでいえば、上手な質問か下手な質問かは、質問する当人にとってそれが切実であるかそうでないかだ。右か左か、賛成か反対かと世論調査のように訊く、これがいちばん下手な質問だといい、小林秀雄が最も嫌った質問だった。学生の質問を、自分自身にとっても切実な問題として聞き取った。

 

*本書の池田雅延「問うことと答えること」より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 04-1408