きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

マルサス『人口論』 若き天才の作品

 

戦争や疫病、飢餓などが
人口増を食い止めるために必要
貧しい人をむやみに助けるべきではない

 ダーウィンにも多大な影響を与えた
マルサスの『人口論

 

 

マルサス『人口の原理』の影響

 イギリスの経済学者トーマス・マルサス1798年『人口の原理(人口論)』を匿名で出版した。彼は人間の数が食料より速く増えるので、戦争、疫病、飢餓などで人口増を食い止めるしかないと言った。その余りのショッキングな内容に大変な反響と反発を引き起した。
 英国の産業革命で大幅に人口が増え、マルサスがいたロンドンでは3人に2人は5歳までに死ぬ有様だった。食べ物には限りがあるから貧しい人をむやみに助けるべきではない、と主張したのだ。ダーウィンへの影響は大きく、それは本当にすごい結論だった。

 

 

 

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Thomas Robert Malthus  トーマス・ロバート・マルサス
[1766年-1834年]  古典派経済学を代表するイギリスの経済学者。父はルソー、ヒュームと親交があり、その影響を受けて育つ。ケンブリッジ大学を卒業後研究員になり、のち牧師となる。32歳のときに匿名で出した本書『人口論』(初版)は当時のイギリス社会に大きな衝撃を与えた。その後に名前を明かしたうえで第2版を出し、約30年をかけて第6版までを刊行した。

 

 

生存権の否定

 『人口論』は次のような命題につながる。人口の抑制をしなかった場合、食糧不足で餓死に至ることもあるが、それは人間自身の責任でありこれらの人に生存権が与えられなくなるのは当然のことである。戦争、貧困、飢餓は人口抑制のためによい。これらの人を社会は救済できないし、救済するべきでないとマルサスは考えた。これらマルサスによる生存権の否定は、ジャーナリストのウイリアム・コベットなどから人道に反すると批判を受けた。

 

ダーウィンに多大な影響を与える

 人口を統計学的に考察した結果、「予防的抑制」と「抑圧的抑制」の二つの制御装置の考え方に到ったが、この思想は後のチャールズ・ダーウィンの進化論を強力に支える思想となった。特に自然淘汰に関する考察に少なからず影響を与えている。すなわち、人類は叡智があり、血みどろの生存競争を回避しようとするが、動植物の世界にはこれがない。よってマルサス人口論のとおりの自然淘汰が動植物の世界には起きる。そのため、生存競争において有利な個体差をもったものが生き残り、子孫は有利な変異を受け継いだとダーウィンは結論したのである。

 

人口論の基礎

人口は人間の数が食糧生産より速く増えることで、次のことが予想できる。これらは主に貧困層を中心に苦しめることになる。
① 食糧不足によって多くの人が餓死する
② 環境が劣悪になって疫病が流行し、多くの人が病死する
③ 食の奪い合いにより戦争が起こり、多くの人が戦死する

かなり衝撃的な内容であるため、第2版で「人口が増えれば、それにつれて子供を作ろうとする者が少なくなる。よって人口増加のダメージは減る」という道徳抑制論を唱え、主張を柔らかくした。しかし、この道徳的抑制論は厳しい倫理的問題を抱えていることが分かる。

 

貧しい人をむやみに助けるべきではない

 道徳的抑制論では「それ故に貧困層は子づくりを控える」という理屈を唱えているが、ならば政府が貧困層に金銭的支援をすることは間違っているということになってしまう。なぜならば、もし政府が貧困層にお金を渡してしまえば彼らは生活に余裕ができて子どもを作ってしまうからだ。

 例えば、日本がアフリカの国に募金をしたとする。そうなるとその国はそのお金で薬や食料を買うことによって、餓死者や病死者を減らすことができるが、しかしそれは同時に国力を超えた人口を抱えることを意味する。過剰人口は上述した問題を誘発し、結果として貧困は解決しない。アフリカの貧困を解決するには結局は住民たち自身で人口調整をしつつ徐々に発展していくしかない。この論理は今日でも、安易な食料援助、経済援助は無駄だという主張を支えている。世界人口はまもなく100億人を突破しようとしている。

 

 

 

人口論 (光文社古典新訳文庫)

人口論 (光文社古典新訳文庫)

 
人口の原理 (岩波文庫 白 107-1)

人口の原理 (岩波文庫 白 107-1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 05-1841