きょうも読書

言葉の迷路を彷徨う

名著『外国語上達法』を読む

 

有名私立大学の教授が勧める1冊
そこには習得を容易にするコツがあった

 

 

外国語上達法 (岩波新書 黄版 329)

外国語上達法 (岩波新書 黄版 329)

 


千野栄一(ちのえいいち)

1932年東京生まれ。日本の言語学者東京外国語大学名誉教授、元和光大学学長。言語学およびチェコ語を中心としたスラブ語学が専門。晩年は「千葉榮一」と表記した。東京外国語大学(ロシア語)卒業。東京大学文学部言語学専攻卒業。ほかに『エクスプレス チェコ語』『プラハの古本屋』『言語学 私のラブストーリー』など。2002年に死去。

 

 

 

著者がここで述べている2つのこと

① 外国語の習得にはその習得を容易にするコツがあり、そのコツを知ることが大切。
② 覚えたことを忘れることを恐れてはいけない。

 
なぜ学ぶのか、ゴールはどこか

 外国語を習うとき、なんでこの外国語を習うのか、という意識が明白であることが絶対に必要である。いい先生、よい教科書、よい辞書があってもうまくこれらの外国語がものにならない人は、目的意識の不足がその原因である。多くの人が英語の学習で涙を流すのは、なぜ英語を学ばねばならないのかについて自分の気持ちが整理されていず、明確な目的がないからである。


必要最小限の知識でいい

 ヨーロッパのホテルで食事をするとウエイターが寄ってきて注文をとる。日本人とは英語で、ドイツ人とはドイツ語で、フランス人とはフランス語で応対する。しかしこの人たちは3か国語が喋れるというよりも、「お飲み物は何にしますか?」といういくつかのパターンを知っているにすぎない。すなわち、この人たちは英語でエリオットを読み、フランス語でサルトルを論じ、ドイツ語でトーマス・マンを楽しむという人たちではない。自分の職業に必要な最小限の知識を備えているにすぎない。これで十分なのであり、ここに学習のヒントがある。
 人間の能力には限界があって寿命も限られているのであるから、必要なだけの英語ができればよく、それで十分なのである。


上達に必要なのはこの2つ

 外国語の上達に必要なもの、それはこの2つ「お金と時間」という。人間はそもそもケチであるので、お金を払うとそれをむだにすまいという気がおこり、その時間がむだにならないようにと予習・復習をするというのである。外国人に日本語を教え、そのかわりにその外国語を学ぶというのはよく聞くが、そうやって上達した人に会ったことがないのは、お金を使っていないからであろう。


毎日少しずつでも繰り返す

 外国語の習得には時間が必要である。まず半年ぐらいはがむしゃらに進む必要がある。これは人工衛星を軌道に乗せるまでロケットの推進力が必要なのと同じで、一度軌道に乗りさえすれば、あとは定期的に限られた時間を割けばいい。1日に6時間ずつ4日やるより、2時間ずつ12日した方がいい。毎日少しずつでも定期的に繰り返すこと。


覚えるのは語彙と文法

 お金と時間が必要なことが分かったが、それではそのお金と時間で何を学ぶべきなのか。それは覚えなければいけないのは、たったの2つ。「語彙と文法」だ。すべての外国語の学習に際して絶対に必要なのは、この2つである。単語のない言語はないし、その単語を組み合せて文を作る規則を持たない言語はない。


学習に必要な3つのもの

 外国語を学ぶためには、次の3つが揃っていることが望ましい。その第1はいい教科書であり、第2はいい教師で、第3はいい辞書である。いい教科書に当たるかどうかで、外国語の習得の難易度は大きく変わってくる。いい先生にめぐり会った人はそのチャンスをモノにすべきである。辞書は文化の一躍を担っている重要な作品である。


繰り返しは学習の母

 言語を人間に例えれば骨や神経は文法であり、語彙は血であり肉である。言語において語彙は大切。絶えず単語帳をめくる努力が必要だ。ラテン語の格言がすべてを物語っている。「繰り返しは学習の母である」と。


まずは1,000の単語を覚える

 ある外国語を習得したいという欲望が生れてきたとき、まずその欲望がどうしてもそうしたいという衝動に変わるまで待つのが第1の作戦である。その衝動によりまず何はともあれ、やみくもに1,000の単語を覚えることが必要である。この1,000語はその言語を学ぶための入門許可証のようなものである。その単語の記憶を確実にするのには、それを書くことをおすすめする。理屈なしに出来るだけ短時間で覚えること。


頻度の高い単語から覚えること

 次にどういう単語を覚えないといけないか。それはよくでてくる単語、言語学的にいえば、頻度の高いものから覚えるべきである。大体どの言語のテキストでも、テキストの90%は3,000の語を使用することでできている。すなわち、3,000語覚えれば、テキストの90%は理解できることになる。残りの10%の語は辞書で引けばいい。これならもう絶望的ではない。そこでもっとも重要なのが最初の1,000語なのである。

 

本書について

 本書は、ある有名私立大学の教員から勧められたものである。「必要なだけの英語ができればよく、それで十分なのである」の一言に、はっとさせられる。完璧を目指さなくていいんだと。今回はエッセンス部分を取りあげたが、詳しくはぜひ本書を読んで頂きたい。文法や学習書のほかに辞書や、発音、会話、教師についても詳しく書かれている。語学上達法の本はたくさん出ているが、名著と呼ばれている本書などを読んでみるのも大いに参考になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 11-2316